第7話:次なるステージへ
チャンネルを立ち上げてから、あっという間に数日が過ぎた。
元々登録者が100人ちょっとだった、いろはの個人チャンネルは──
「まどいろちゃんねる」として生まれ変わり、現在の登録者数は500人超え。
数字だけを見れば、爆発的とまでは言えない。けれど確実に伸びている。
生配信中の同時視聴者数も、ここ数日は常時百人超えを記録していた。
コメント欄も活気づいていて、視聴者同士のやり取りが始まることすらある。
──手応えは、ある。
まどかの現在レベルは28。
いろははそれにわずかに遅れて27。
あの日から、二人でのダンジョン攻略と配信を重ねるうちに、レベルも視聴者も少しずつ伸びてきた。
いろはの元から持っていた熱量。
そして、まどかの戦術と演出に対する分析。
まったく異なる視点が今は噛み合い始めている。
そして──次のステップがそろそろ必要だった。
「ねえまどにゃん、そろそろ“見せ場”っぽいの、欲しくない?」
いろはがログイン早々、そんなことを言い出した。
「見せ場……っていうと?」
「こう、ガチ目のチャレンジ! 高難易度に挑んで、ピンチからの逆転!みたいな!」
わかってる。彼女なりに、今のままじゃ足りないと感じているのだ。
視聴者の増加は順調だが、それをさらに押し上げる“きっかけ”が欲しい──と。
だから、まどかも言った。
「……ちょっと難易度は高いけど、ちょうど良さそうなダンジョン、見つけたよ」
まどかが提示したのは、推奨レベル32の中級ダンジョン。
正式名称は《ディセント・フォレスト》。
森と地下洞のハイブリッド構造で、迷いやすい上に状態異常を絡めた敵が多く出現するらしい。
もちろん、2人ともまだ推奨レベルには届いていない。
そしてこのゲームにおいて、推奨より下のレベルでの挑戦は“事故”のリスクも跳ね上がる。
「現時点の私たちで初見クリアできる確率は──……よくて30%かな」
まどかは、調査していたメモウィンドウを閉じながらそう結論づけた。
「……三割!? 思ったよりいけそうじゃん!」
「でもそれ、あくまで私の見立てだし、条件次第では20%も切るかも」
いろはの表情が若干引きつるのを見て、まどかは小さく笑う。
「けどね、配信的には──『初見でクリアできる確率? うーん、10%くらい?』って言っとくのが丁度いいかな」
「なるほど、“盛り”ですな!」
「そう、“盛り”。難しいって分かってた方が、視聴者も盛り上がるしね」
「ていうか10%って、それ言われたら逆に成功フラグじゃん!」
まどかは思う。
この子のこのポジティブさが、本当にありがたい。
だから、自分も分析や構成でしっかり支えなければと思える。
「それじゃ、チャレンジは次の配信で。事前に“初見・ガチ・高難度”って告知打っとこうか」
「あとあと、サムネイルに『挑戦』ってでっかく入れよう! 視聴者釣れるやつ!!」
「……こういうところの嗅覚はあるんだよね……」
「褒められた!」
軽口を交わしながら、まどかの中には確かな高揚感があった。
ゲームとしての挑戦。
配信者としての挑戦。
そのどちらにも、今は迷いがない。
たった二人。
まだまだ無名。
それでも──この組み合わせなら、何かを起こせる気がしていた。