第76話:鉱山の果て、大広間の主
「こっちの道、空気がちょっと動いてる気がする」
「本当? ……じゃあ進んでみる?」
まどかといろはは、複雑に入り組んだ鉱山内部を慎重に進んでいた。
手にしたランタン型魔法灯が、鉄分を多く含んだ岩肌をほのかに照らしている。
すでに何層も下へ降りてきたが、肝心のミスリル鉱は未発見のままだ。
「ここの鉱石……見た目はミスリルっぽいけど、色味が違うね」
「これは“鋼青石”だね。珍しいけど、目的のものじゃないな」
採掘スキルを持つサーシャが即座に断言し、まどかは肩を落とした。
「でも、ミスリル以外も結構素材集まってるね。あとでミナトに渡そ」
「それよりも、そろそろこの先に……何かありそうな気がする」
▶ ぶさかわが先頭で隊長気取ってるw
▶ 素材集めも配信映えする
▶ ミスリルはまだかー!
そのとき、ひときわ分岐が多い空間に出る。
途切れる足跡。微かな風。交差するルート。
「……さて、どこにいこうか?」
「ふふふ、ここは──」
「ロロが直感で走り出した!!」
「だって、直感って……止められないんだよ!」
ロロはにこにことしながら、さっさと右の通路へ進んでいく。
「はあ……でも、結果的に意外と外れないんだよね」
「うちのチャンネルでも人気コーナーだからな! “ロロの感覚だけで迷宮踏破!”」
「嫌なタイトルだなあ……」
そして、途中でぶさかわが突然「きゅっ」と短く鳴いた。
「……なにか、いる?」
まどかがピタリと止まり、視線を向けた先の岩陰から、小型のモンスター、ストーンビートルが飛び出した。
「──来るよ!」
「二連歩──トリックフェイント!」
まどかの高速ステップからのカウンターが1激でビートルを地面に沈める。
▶ またちゃんと索敵仕事してる
▶ 普通に欲しくなってきたな
▶ マーモットが有能すぎる
「ぶさかわ、ナイス索敵。ちゃんとお仕事してる……」
まどかが頭を撫でると、ぶさかわはシルクハットを傾けながら「きゅっ」と誇らしげに鳴いた。
「うーん、今日一番活躍してるかも……」
そして数十分後──
目の前の通路がふいに開けた。
ひんやりとした空気が流れ込み、湿った岩肌の奥に巨大な空間が現れる。
「……広間……?」
「いや、これは……ボス部屋って雰囲気だよね」
一歩踏み込むと、壁に設置された魔導灯が“自動起動”し、広間全体を明るく照らし出した。
中央には、亀裂の走った岩盤と、大きな骨の残骸。
だが──その時、骨がひときわ大きな音を立てて砕けた。
中から現れたのは、黒と銀の鱗を纏った、翼竜のようなドラゴン型モンスター。
角の根元には鉱石のような結晶体が浮かび、鋭く光っている。
【LV45 鉱脈竜・ジル=メテリオ】
「ドラゴンタイプ……!」
「イベントのスライムと違って本物のドラゴンだ!!」
「これまでの雑魚と比べて格が違う……」
「これは相当気合入れないとマズイね……!」
まどかが一歩前に出て、ナイフを逆手に構える。
「行こう、配信的にも勝たなきゃ締まらないよね!」
「もちろん! やるからには全力で!」
「ぶさかわは……そこで応援してて!」
「きゅっ!」
ドラゴンの方向の中、その巨体に向かって4人はそれぞれの配置へ駆ける。




