第74話:突発コラボ!
高山地帯の入り口は、冷たい風と薄く立ちこめる霧が迎えてくれた。
足元は岩がちで滑りやすく、登るごとに酸素も薄く感じる。
「けっこう本格的に山だね……!」
「でも空気が澄んでて気持ちいい……ぶさかわも頑張ってるね」
「きゅっ」
小さな爪を岩に引っかけながら、とことこ歩くぶさかわはシルクハット姿。
道すがら何人かのプレイヤーたちがすれ違いざまに振り返り、思わず笑っていた。
▶ ぶさかわ登山!
▶ すれ違う人皆、二度見してんじゃんw
▶ この子いるだけで癒し増し増し
「……って、あれ。あの後ろ姿……」
まどかが視線の先を指差した。
小高い段差の先、2人組のプレイヤー。
元気に跳ね回る小柄な少女と、ロングヘアを揺らす大剣を担いだ女性。
「──サロロの2人?」
「おーい!」
呼びかけると、先に気づいたのはロロの方だった。
「んー? あっ、まどいろ!」
手をぶんぶん振って駆け寄ってくるロロ。
その後ろで、サーシャが苦笑しながらついてくる。
「まさか、同じタイミングで来るなんてね」
「そっちもミスリル目当て? こっちもミナト……友達の鍛冶師に依頼されてさ。」
「そうそう、私たちも視聴者にせっつかれて来た感じだしね……」
互いの目的が同じだと知ると、自然な流れで提案が飛び出す。
「せっかくだし、臨時パーティー組んで、突発コラボ配信、しちゃう?」
「いいね! 今のとこ配信的にもヒマだし!」
▶ 突発コラボキタ━(゜∀゜)━!
▶ まどいろ&サロロ!
▶ これはたすかる
さくっとパーティーを結成し、改めて鉱山入り口へ向かう道すがら。
「ところでさ……ぶさかわって、なんか……ロロと相性良くない?」
「ん? そうかな?」
まどかがちらっと見ると、ぶさかわはロロの足元にくっついて歩いていた。
ときどきロロのブーツをぺしっと前足で叩いては、「きゅっ」と鳴く。
サロロの2人にぶさかわを紹介をした時から、妙にロロに懐いている気がする。
「……まさか、通じ合ってる?」
「いや、それは……ああ、でも……あるかも」
「何その曖昧な肯定」
「いや、なんか、波長ってあるじゃん? 言葉じゃない共感っていうか……」
ロロはぶさかわに顔を寄せ、「うんうん」と頷いていた。
その光景を見たサーシャが、横で「また始まった……」と顔を覆う。
そして、問題の鉱山へ──
岩でできた門を抜け、長く伸びるトンネルを歩いていく。
内部は明かりもなく、松明や魔法で照らしながら慎重に進む。
「ミスリル……ほんとにあるのかな?」
「鉱石は壁に薄く埋まってるって聞いた。ピカッて青く光るらしいよ」
「ぶさかわ鉱石探知よろしく!」
「きゅっ」
「返事してるけど、ぶさかわにそんな能力ないからね?」
と、そんな時──
「……ねえ、あれ見て! 床ちょっと浮いてな……」
「わーーっ!!」
ロロの叫びとともに、彼女の足元が“バコン”と音を立てて沈み込んだ。
「えっ、ロロ──!?」
「わぁっ──ちょ、うそ、こっちも!?」
「う、うわああああああ!!」
「きゅーっっ!」
まどか、いろは、サーシャ──ぶさかわ、全員、次々と落ちていく。
ズズズズ……バシャン!
着地したのは、広めの地下小部屋。
天井は高く、天井の落とし穴がカシャリと音を立てて閉まる。
「……お約束すぎる……」
「これ絶対ロロのせい……」
「うーん、ごめんねー……でも、楽しいね?!」
「どんな感想!?」
▶ お約束ww
▶ 罠に落ちるのも定番
▶ ロロは裏切らない
▶ トラップ芸人すぎる
そして、突如、周囲の壁が震える。
「……これ、まさか」
「うわ──囲まれた!」
壁の割れ目から現れたのは、地中モンスターの群れ。
足音がぞろぞろと響き、複数体の 《地竜ムカデ》 が姿を現す。
「いやちょっと数多いって!?」
「ぶさかわ、固まってないでこっちきて、危ない!」
「きゅっ……」
ぶさかわは我に返った瞬間、いろはにむかって猛ダッシュで逃げだす。
まどかがナイフを構える。
「ここ、さくっと切り抜けて──ミスリルの本命ゾーンまで行くよ!」
「よーし、突発コラボでもぶちかましちゃえ!」




