第72話:ぶさかわ警報発動
「さて、せっかく孵化も済んだし、今日はのんびりお散歩配信でもしてみようか」
そうまどかが言うと、ぶさかわが元気よく一歩前に出て、ピッと短く鳴いた。
「うんうん、ぶさかわも準備万端だねー!」
▶︎ 冒険の幕開け!
▶︎ ぶさかわ警備隊出動!
▶︎ もう存在が癒やし
まどいろとぶさかわ、2人と1匹は街の南側にある低地フィールドへと足を踏み入れる。
レベル帯は30前後で、あまり脅威となる敵もいない。中級序盤の狩場としてもよく知られた場所だ。
「ぶさかわ、敵が来たらちゃんと教えてね?」
「くぅっ!」
小さく頷いた(ように見えた)ぶさかわが、まどかたちのすぐ後ろを、とことことついてくる。
フィールドには緩やかな丘や風に揺れる草むらが広がっていて、確かにあまり危険は感じられない。
暫くのんびりと歩いていると、ぶさかわがキョロキョロと周りを見渡し、小さく鳴き声をあげる。
「……あ、ちょっと待って。ぶさかわが鳴いた」
「お、どこどこ?……あー、あれか」
丘の向こうからノコノコと近づいてくるのは、木の皮のような体に短い足、ぽってりした胴体──ウッドベアというモンスターだ。
「キュッキュッって鳴いてたよね。ちゃんと察知してる!」
「ほんとにしっかり反応するんだ、すごいな」
ウッドベアは特に害のあるモンスターでもなかったので、まどかは軽くナイフで一閃。
スカーレットラインが草原に赤い線を引くように光り、ウッドベアはぴょこっと跳ねて消えていった。
「よし、ぶさかわも初仕事バッチリだね!」
「がんばったね~」
「……キュキッ?」
ぶさかわはよくわかっていない様子だったが、いろはが頭を撫でると満足そうに目を細めた。
▶︎ これは普通に有能
▶︎ 癒やしだ……
▶︎ 任務完了ご褒美ナデナデ
「ただ、これだけに頼っちゃダメだよね」
まどかが小さく呟いたその直後──
「っ!? まどにゃん、後ろ──!」
ゴウッ、と木が割れるような音がして、背後から太い枝が横薙ぎに襲ってくる。
咄嗟にしゃがみ、回避と同時にナイフで反撃。
「……トレント!? って、ぶさかわ! 鳴いてなかったじゃん!」
「うーん、言ったそばから10%ひいちゃったか~」
▶︎ いうて90%ww
▶︎ フラグ立ててたじゃん!
▶︎ ぶさかわ逆に空気読んだ説
襲いかかってきたトレントは中型モンスターで、ウッドベアより遥かに手強い。
だがまどかにとっては、それでも脅威とは言えない。
「スカーレット──」
「ラインッ!」
ナイフが赤く煌めき、トレントの幹に深く線を引く。
さらに続けてシーフスキルの連撃で一気にトドメを刺すと、木屑を撒き散らしながらトレントは地面に崩れ落ちた。
「……あぶなっ。油断してた……!」
「まどにゃん、大丈夫!?」
「うん、余裕。……だけど、やっぱり頼りきりはだめだね。便利なのは間違いないけどさ」
「そっか……ぶさかわ、今の見てた?」
まどかの足元で固まっていたぶさかわは、口を半開きにしたまま、びくとも動かない。
▶︎ 草
▶︎ ショックでフリーズしてるw
▶︎ きゅ、キュッ…?
「……びっくりしたのかな?」
「そりゃあトレントは大きいし、急だったしね」
いろはがしゃがみこんでぶさかわを優しく抱き上げると、ぶさかわはようやくピクリと動いて、控えめに「きゅぅ……」と鳴いた。
「よしよーし、びっくりしたねー」
「あんまり甘やかすと強く育たないよ?」
「ぶさかわはまだ赤ちゃんみたいなもんだからいいの!」
▶︎ いろはママ説
▶︎ ぶさかわに甘い世界
▶︎ ちょっと俺もぶさかわに改名してくるわ
その後も草原を軽く一周して、危険な敵はいないかぶさかわと一緒に確認。
ぶさかわの【警戒哨】は、おおむね確率通り働いてくれていた。
「うん、だいたいこっちが気づくより早く察知してくれる。普通に優秀だよぶさかわ。」
「きゅっきゅ!」
小さな鳴き声と共に、ぶさかわがとことこと前を歩き出す。
どこか得意げな様子に、まどかもいろはもつい笑ってしまう。
「とりあえずぶさかわのお披露目はこんなもんで、次は私たちの装備を更新しに行こうか。」
「丁度ミナトさん達もインしてるみたいだね」
「それじゃあせっかくなんで配信はそのまま! 装備更新していくよ~」




