第70話:ふかふかの卵
翼竜との激戦を終えたまどかといろはは、まだ熱の残る巣の縁に腰を下ろしていた。
「……ふーっ。強かったけど、勝てたね」
「うん。でも、空飛ぶ相手はやっぱり厄介だったー。ナイフが届かないの、ほんとじれったかったよー」
▶︎ まどにゃん飛び上がっていったのびびった
▶︎ 無謀と思ったら勝っちゃうの草
▶︎ ガチで実力がついて来てるな
「さてさて、せっかく倒したし……」
まどかは巣の中を覗き込む。
「……あった、卵。全部で三つだね。サイズは……うん、ちょうど30センチくらいかな」
「わ、ほんとだ!でも、これ全部持ってくの?」
といろはが不安げに問いかける。
「他の魔物に食べられるだけでしょ。もったいないよ」
まどかはためらいもなく、卵を一つずつ丁寧に布で包みリュックに収めていく。
「三つのうち一つはクエスト用、あとの二つは……まあ、売っちゃえばちょっとした資金にはなるはず」
「えー……育ててみたい気持ちもちょっとあるけどね」
「残念、これ」
まどかが卵のアイテム情報を表示しながら見せる。
「《孵化不可》って書いてある。……ダジャレ!?」
▶︎ 情報欄で笑わせにくるのやめろw
▶︎ ふかふか~ww
▶︎ これ実は表記ミスで孵化したりしない?
苦笑しつつも、まどかたちはその場を後にし、山を下って街へと戻った。
帰還すると、街のクエストカウンターで速やかに報告を済ませ、依頼主からの連絡を受けて私邸へと案内される。
そこは装飾過多な外観に加えて、庭園には金ピカの像が並ぶ、いかにもお金持ちの邸宅だった。
「ようこそようこそ、お嬢様方!待っていたよ!」
現れたのは金色のタキシードを身にまとった中年男性。
名前はクラーレといい、この街の貿易ギルドに大きな顔を利かせる有力者らしい。
「どうしても翼竜の子供が欲しくてねぇ、苦労して孵化器を集めたのだが……卵の方が手に入らなかったんだよ。いやはや、おかげで念願が叶いそうだ!」
やたらとうれしそうに語りながら、クラーレは広間中央のガラスケースへと案内する。
そこには、光沢のある黒銀の卵がセットされており、すでに孵化器へと設置されていた。
「さあさあ、二人とも、運命の瞬間に立ち会ってくれたまえ!」
孵化器がカチリと音を立てて動作を始める。
中心部がほんのりと赤く光り、卵の表面が徐々に振動し始めた。
コツン……コツン……と、内側から殻を叩く音。
続いて、ぴしりと入る亀裂。そして──
パカリ、と黒銀の卵が開くと、中から姿を現したのは、ふわふわの薄い灰色の羽毛に包まれた、小さな翼竜の赤ちゃんだった。
「おおおおおっ! 見たまえ見たまえ! この気高さ、この柔らかさ、完璧じゃないかああああっ!」
▶︎ 子供のころはフサフサなんだ……
▶︎ かわいいのか微妙なラインだな
▶︎ 孵化シーンあったのはちょっと得した気分
クラーレが歓喜に浸っている間、執事らしきNPCが孵化器を丁寧に取り外すと、まどかたちの方へ持ってきた。
「依頼報酬として、こちらの孵化器を差し上げるとのことでございます。マスターはもう次の卵を育てる気はないようですので」
「おー、ほんとにくれるんだ、よかった」
「うん、使い方も見れたし、よかったね!」
孵化機と共に報酬のお金も受け取りクエストクリアとなる。
▶︎ いよいよまどいろのペットくるか!?
▶︎ まどにゃんなら黒猫とかが似合うかな?
▶︎ レアペットはまだあんまり種類確認されてないからなー
まどかは受け取った孵化器の性能を確認する。
「【特殊孵化器・型式R】……レア以上の卵に対応、使用時MP10%消費……ふむふむ」
「よし、じゃあ──」と、まどかが小さく笑って、いろはと視線を交わす。
「いよいよ、私たちのペット、誕生のときだね」




