第6話:乗せられたわけじゃない
第6話:乗せられたわけじゃない
ログイン直後、メールウィンドウが勢いよく点滅していた。
送信元はいろは。件名には──
「【すごい!】アーカイブがバズってる件!!!」
……嫌な予感しかしない。
開いてみると、いろはのハイテンションがそのまま文章になっていた。
まどにゃん!
すごい! 昨日のアーカイブの再生数、いつもの3倍以上あるよ!?
これはもう運命の相手を見つけちゃったかもしれない!!
ねえ、二人でチャンネル作って、一緒に配信者やろうよ!!
コメントもいっぱい来てて、まどにゃんの人気やばいんだから!!!
お願い! これは乗るしかないビッグウェーブ!!!!!
「……あいかわらずテンションが暴力」
勢いだけで書かれたようなメッセージに苦笑しつつも、昨日の夜のことがふと脳裏をよぎる。
画面の中、自分が戦って、しゃべって、笑っていた。
そこに視聴者がいて、コメントが返ってきて。
──気づけば、自分が“配信の世界”に足を踏み入れていた。
あの時は照れくささが先に来たけど、それだけじゃなかった。
もったいない、と感じた。
「ここをこうすればもっと映えるのに」とか「テンポが悪いな」とか──
見てるうちに自然と頭の中で、改善点がいくつも浮かんでいた。
それはたぶん、今まで“推し活”で培ってきた、
ルナの配信を何十回と見てきた自分だからこそ気づけた部分だった。
いろはの熱量とこだわりに、私の視点と分析が合わさったら──
もっと“楽しい配信”、もっと“観てもらえる配信”が作れるかもしれない。
──そう思ってしまったのなら、もう後には引けない。
一人だったら絶対に踏み込まなかったであろう選択肢。
でも、いろはの勢いと真っ直ぐさを前にして、
あの瞬間の高揚感をもう一度味わいたいと思ってしまったのは、きっと本音だった。
「……ったく、うまく乗せられたなあ」
ため息交じりに、返信ウィンドウを開く。
タイピングする手が、なぜか少し震えていた。
了解。やってみよっか。
でも、やるからには中途半端は無しだよ。
一番上、目指すつもりでやるから。
──送信。
たったそれだけのメッセージなのに、すごく大きな一歩を踏み出したような気がした。
しばらくして、即座に返ってきた通知には、「やったー!!!」の文字と大量の絵文字が満載だった。
なんだか悔しいので、あくまで“渋々”ということにしておく。
でも、心のどこかで、もう決まっていた。
このコンビで。
まどかといろは──2人で配信の世界を走り出す準備はできている。