第52話:コアの在処は
幾度となく攻撃と回避を繰り返しながら、まどかはその隙を突いて巨人の右脚へ渾身の一撃を叩き込んだ。
ナイフが深く突き刺さり、砂の肉体が裂け──
「……やった!」
巨人の右脚が、ざざっと音を立てて崩れ落ちる。
これで、バランスを崩して転倒──そう思ったのも束の間だった。
「え……」
足元の地面から砂が舞い上がり、まるで磁石に引き寄せられるように切断箇所へと吸い寄せられていく。
たった数秒、崩れた右脚は、何事もなかったかのように元通りに再構築されていた。
「くっ……やっぱり、砂の体……!」
まどかは歯噛みする。
このフィールドは砂漠。周囲には無限とも言える“素材”がある。
どれだけ削ろうと、コアを潰さない限りキリがない。
……でも今、何か“違和感”があった。
右脚を切り落とした後、「砂を別の部位から引き寄せた」のではなく、
砂は地面から直接舞い上がって再生していた。
それをただのエフェクトと片づけることもできる。だが──
まどかはひとつの仮説を立てる。
「……なら、あれを止めれば!」
思い切り駆け出し、巨人の懐、股の下に潜り込む。
巨体が嫌がるように一歩、二歩と後退しようとする。
「……やっぱり、これだ!」
「いろは! 巨人の足元! スプリンクラーお願い!」
「オッケー! 《スプリンクラー》、展開っ!」
放たれた水の魔法が砂地に降り注ぎ、みるみる地面が湿り、締まっていく。
ぬかるんだ足場に砂が粘着し、巨人の脚が沈み込むように地にめり込む。
踏ん張ろうとする動作すらぎこちない。
▶ フィールドを武器にするスタイル大好物です
▶ スプリンクラーさん今日大活躍で草
▶ あの懐に入る勇気と判断、まどかやっぱやべーよ……
「よし……これで、“再生”の仕組みがわかるかも!」
巨体の再生機構を止める手がかりを掴み、まどかの視線は次の一手へ。
その砂の奥にある“本体”──すなわちコアの在処を暴きにかかる。
足元を《スプリンクラー》で固めたことで、巨人の挙動が明らかに鈍くなった。
重い脚が地に食い込み、動くたびに地面を引き裂くような音が響く。
「なら、コアは……!」
まどかは巨人の足元、──正確には股下の中央の地面を何度もナイフで削ぎ落としていく。
土煙が舞い上がる中、砂交じりの巨体地面にナイフが刺さるたび、ボスのHPがじわじわと減少していく。
「当たり、か……!」
やはり、地面も含めてボス判定がある。という事はコアの在処はきっと……。
まどかが確信を深めかけたその時──
「……っ!?」
突然、ズポンッという音とともに、まどかの足元近くの地面が盛り上がり、何かが飛び出してきた。
「……モグラ?」
砂をまとった茶色のモグラが、ひょこんと頭を出す。
大きさは50センチほど──モグラとしては異様に大きいが、巨人と比べるとあまりにも小さい。
それはつぶらな瞳でじっとまどかを見つめ──
「……えっ、なに?」
そのモグラがスッと右手を挙げた瞬間──
遥か頭上の砂の巨人も、全く同じ動きで右手を挙げた。
「え、まさか……!」
今度は右手を勢いよく振り下ろす。巨人も同様に、腕を叩きつけるように振り下ろす。
「って危なっ!」
間一髪で飛び退き、まどかはその場を離脱。
巨大な腕が地面を抉り、砂煙が噴き上がる。
「……そうか、こいつがコア……っていうより“本体”か!」
▶ モグラ……?
▶ かわいいけどやばい動きしてて草
▶ コアじゃなくて“操縦者”って感じ?
▶ つまり、砂の巨人は……“ロボ”だった……?
「固めた足場で逃げ場がなくなって地中から出てきたんだ……!」
逃げようとした?それとも別の行動のため?
いずれにせよ、本体が地表に出てきたのはチャンスに他ならない。
「よし、こっからは第二ラウンドだね……!」
まどかがナイフを構え直す。視線の先には、つぶらな瞳のくせにとんでもない巨体を操る“司令塔”。




