第51話:暖簾に腕押し、糠に釘
「まどにゃん、どうする? さっそく分身するの?」
「……いや、まだ早い。イリュージョンステップはリスクが大きすぎる。まずは動きを見てから」
崩れ落ちた足場の下。まどかといろはの前に立ちふさがるのは、LV45・デザートジャイアント。
その巨体は、ステージ1でサロロ組が撤退を余儀なくされた強敵そのものだった。
「こいつ……ステージ1のダイジェストで見たやつだ。でかくて、砂嵐とか巻き起こしてきた……」
「でも……行くしかないんだよね」
「うん。行こう!」
いろはの片手杖が淡く光り、まどかに速度バフを付与する。
戦闘開始。デザートジャイアントはその巨体を振るい、叩き潰すような両手打ち下ろしや、踏み潰し攻撃、さらに足元の砂を巻き上げた物理的な砂嵐を放ってくる。
シンプルな攻撃だが、それゆえに強力で、範囲も広い。反応の遅れが即座に致命傷になる。
それでもまどかは動じない。
足場の悪い砂地でありながら、その動きはまるで風のようだった。
(速くない……けど、重い……!)
いろはからの速度バフを受けてなお、速度のステータスは恐らくほぼ互角。
だが、避け切る。すべてを。
まどかの高いプレイヤースキルと、視覚を攪乱するトリックスターのスキル特性があってこそ、成立する戦術。
それでも、攻撃が完全に無効化できるわけではない。
1発、2発――攻撃をかすめるだけでもHPゲージの7割が吹き飛んだ。
「っく……でも、もう大丈夫……いける。 動きに慣れてきた!」
ついにまどかは 《影駆》 を発動。
分身が2体、まどかの姿を模して出現し、デザートジャイアントの目を引きつける。
分身は自律的に動き、攻撃を誘導する。
ただし、作成時に消費したHPは5分間回復不能。まどかの体力は実質6割ほどで固定されたままだ。
「よし! まどにゃんが増えた!! いっけーっ!」
いろはは分身の動きに合わせてバリアの配置と攻撃支援を繰り返す。
本体のまどかがスキを突いて斬撃を入れるたび、配信コメント欄もどよめいた。
▶ まどにゃん回避精度やばすぎん!?
▶ また来たぞ分身!!
▶ ステージ2、最大の見せ場入りましたー
分身が攻撃を引きつけ、まどかが隙を刺す――連携が決まり始める。
戦況が、少しずつだが確かに、動き出していた。
──しかし。
(……浅い。全然手応えがない)
まどかのナイフが巨体を裂いても、返ってくるのは乾いた感触だけ。
デザートジャイアントの体は、どうやらほとんどが“砂”で構成されているらしく、斬り裂いたところで大きなダメージは通らない。
HPゲージはわずかに減っているものの、とても数十分で削り切れるようなペースではない。
「……どこかに、コアがあるはず。ナイフが通らないのは“外装”だけだとしたら──」
人間で言えば急所にあたる「頭部」や「胸部」、あるいは関係ない場所にコアが埋まっている可能性もある。
最悪、移動式のコアというパターンも想定される。
「いろは、水系の魔法お願い! 砂の装甲、なんとか剥がさないと!」
「オッケー! これしかないけど──《スプリンクラー》!」
放たれた魔法は、地面から水柱が吹き出すような演出とともに、広範囲に水の霧を撒き散らす。
名前通り、エフェクトは派手だがダメージはごく僅か。
しかし、狙いはそこではなかった。
霧を浴びたデザートジャイアントの体表が、じわじわと色を変え、部分的に湿って固まり出す。
砂がまとまり、もろさを失って粘性のある表面へと変化していく。
デザートジャイアントの動き自体も、若干遅く、ぎこちなく変わっていく。
「ちょっと硬くなった……よし、これなら!」
まどかは軽やかにステップを踏み、剣を握る手に力を込める。
ぐるりと回り込むように敵の周囲を駆け、湿った部分だけを狙ってナイフで削ぎ落とす。
▶ 水かけるだけでこんなに変わる!?
▶ スプリンクラー初めて役に立ってるの見た……
▶ 回避に削りに支援に、まどいろ噛み合いすぎだろ……!
いろはの魔法とまどかの攻撃により、砂の装甲が剥がれていく。
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《スプリンクラー》
演出重視の水属性範囲魔法。攻撃力は極めて低く、ダメージ源にはなりづらいが、視覚的効果が派手でバフや状態異常のトリガーとして応用されることが多い。




