第50話:踏み越える、その一歩
一方まどいろ達も例の一本道までは難なくたどり着く。
「……来た、かな?」
「うん、一本道。間違いなくここが正念場って雰囲気。」
「念のため──《察域の環》」
まどかの足元を中心に、淡く光る半径15m程の青い円が広がる。
範囲内に潜伏している敵や罠、異常地形などを簡易検知するシーフのスキルだ。
じっくりと範囲内を見渡すまどか、しかし周囲には罠らしき形跡は現れなかった。
「……異常なし。でも、念には念を、だね」
「うん。さすがに何も無いってことは、ぜっったい無いと思う!!」
2人は慎重に足を進める。だが、それも束の間だった。
ズズン──
「きたっ、地面が崩れてる!!」
「急げまどにゃんっ!」
ポータルを目指して駆け出すが、足場は想像以上の速度で崩壊していく。
明らかに向こう岸に届くより足場の崩壊のほうが早い。
「ダメか──っ!?」
その瞬間、いろはが咄嗟に叫ぶ。
「《光彩符》!」
いろはが放ったスキルにより、足元に淡く輝くバリアが形成される。それは、まるで空中に浮かぶ足場のように。
「跳んで、まどにゃんっ!」
まどかは一瞬驚いた表情でいろはを見やるが、反射的に崩れた足場をけ飛ばしバリアの上へと飛び乗る。
バリアの耐久力は高くなく、すぐに崩れてしまうが次へ次へと、いろはが新しい足場を展開する。
「ありがと、いろは!」
バリアの飛び石を踏み、2人は絶妙なタイミングで対岸へ飛び移る。
着地成功──ギリギリのタイミングだった。
「……助かった〜〜〜〜」
「もうちょっとで落ちてたよほんと!」
「ていうか、ポータル、あるよ?」
崩れた橋の先、対岸には確かにゴールを示すポータルが存在していた。
「えっと……このままポータル入ってゴール、でいいのかな?」
戸惑いがちに、まどかの方を見て尋ねるいろは。
だが──その手前側、谷底の暗がりに不自然な巨大な影が見えた。
「って、あれ! ステージ1でサロロが撤退したボスじゃない!?」
いろはの言葉にまどかの目が細まる。
「……あー、いたね。デザートジャイアント。たしかLV45だったっけ?」
ダイジェストで見た砂の巨人の強さに、少し身震いする2人。
「トップ狙えるならこのまま帰るって手も……」
少し怯える振りをしながら、まどかに提案するいろは。しかし少し口角が上がっているのが見えた。
まどかは、いろはの言いたいであろう事を察し、わざとらしく言葉にする。
「あー……でも、さ。ここまで来てボス戦スルーは、もったいなくない?」
「それ! そうだよね!」
笑いながら拳を合わせた2人は、再びバリアの足場を展開し、軽やかに崖下へ降下していく。
「万が一、やられても……それはそれ!」
「そん時は、『エンタメ優先の愚か者』って笑われよう!」
二人で顔を見合わせ、クスリと笑いあう。
暗がりのなか、巨人がゆっくりと身を起こす。
「さて……いろは、準備はいい?」
「いつでも! ──《戦鼓の印》、展開!」
陽気なリズムと共にまどかの周りに光のエフェクトが飛び交い、攻撃力が上昇する。
まどかがナイフを握りしめる。目の前の影は確かに強敵──だが、迷いはない。
2人の挑戦が、静かに幕を開ける──。
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《察域の環》
シーフ系職業が取得可能な、探知・支援スキル
自分を中心とした一定範囲(半径15m程度)に潜伏している敵・罠・異常地形などを簡易検知。
ただし、完璧な詳細表示ではなく、“あたりの空間に不自然な違和感”が視覚エフェクトとして現れる程度。




