第4話:私も画面の中へ
「よーし! じゃあさっそく行こうか、まどちゃん!」
いろはの掛け声とともに、パーティを組んでダンジョンの奥へ進んでいく。
画面右上には、彼女の配信ウィンドウが小さく表示されていた。
視聴者数:15
チャットは穏やかな速度で流れていて、ときどきスタンプも混じる。
その雰囲気は、まるで小さな集会所のようで──少しだけ、居心地がよかった。
▶ 今日は2人PTか〜楽しみ!
▶ まどちゃんがツッコミ役で安心感ある
▶ でもどっちがリーダーなんだこれ?
「あのさ、これ、完全に私が仕切ってる風になってない?」
「そりゃそうだよ〜! 私、地図読めないし!」
「読めないって何!?」
ツッコミながらも、どこかテンポが合っているのが腹立たしい。
完全にペースを乱されているのに、不快じゃない。不思議な感じだ。
多少のトラブルはありつつも、ダンジョン攻略自体は順調だった。
構造はそれほど複雑ではなく、敵の配置もシンプル。
とはいえしっかり戦いも楽しめる作りだ。
「おー、大きい扉! ボス部屋だよねこれ! よーし、やっちゃうぞー!」
「なんでそんなハキハキしてんのに、戦闘があれなの……」
「そこはほら、まどにゃんの見せ場でしょ? 私は叫ぶ係!」
冗談なのか本気なのか。
いろはの言葉に肩をすくめつつ、まどかは扉に手をかける。
開かれた先には、大きなスライムが鎮座していた。
典型的な初心者ダンジョンのボス──といった風貌だ。
「じゃあ、私が右から回るから、いろはは──」
「突撃ーっ!!」
「って言ってるそばから!!」
バトル開始。
案の定、いろはは動きがバタバタしている。
でも、しっかりボスのタゲを引きつけていて、隙が生まれている。
……それが意図したものかは怪しいけれど。
まどかはすかさず背後へ回り込み、スキルを滑り込ませる。
スピードを生かした連続攻撃で大きいだけのスライムを翻弄する。
振り返り様ざまの鋭い一閃がスライムの身体を裂き、HPを大きく削り取った。
【コメント欄】
▶ まどにゃんの火力やばいww
▶ 連携取れてる風なの草
▶ でもいろはが突撃したのがトリガーだから(震え声)
「やったー! 倒した! どう!? かっこよかった!?」
「かっこいいの方向性が違うけど、まあ……うん、がんばった」
「まどちゃん、いまちょっと笑ったでしょ!?」
「笑ってない」
「絶対笑ってた〜!」
冗談混じりのやりとりも、全部視聴者に筒抜け。
でも、それがどうというわけでもなかった。
不思議と、イヤじゃなかった。
あの時はただの観客だった“配信”の世界。
そこに、ほんの少しだけ、自分の声が混じっている。
たったそれだけのことなのに、胸の奥が少しだけ、あたたかくなった。
こうして、私の初めてのダンジョン攻略と──
配信デビュー戦は、幕を閉じた。