第44話:七つの核と、幻影の一閃
──これはもう、スライムの粋を超えてる。
目の前に立ちはだかる、七色の魔獣。
その姿はスライムの集合体でこそあるが、まるで本物のドラゴンを思わせる巨体と威圧感をまとっていた。
「見たところ……マグマ、ポイズン、エア、アイス、ジュエル、シャドウ、ライト……。
おそらく、それぞれ上位個体の混成体だね」
まどかが冷静に解析を進める。
「ドラゴンの頭部にはマグマ。胴体にはジュエルとポイズン。
両翼はシャドウとライト、右半身がエア、左半身がアイス──
それぞれに、核っぽいのが見える……」
各パーツが独立して思考しているように、攻撃のテンポも角度もまるでバラバラ。
──それはまるで「脳が7つ」あるかのような挙動だった。
▶ まって、これどうすんの??
▶ 近づけないって……
▶ 運営、タイムアタックでこれ選ぶ!?バランスぅ……
「どうしよう……まどにゃん! わたしの遠距離スキルじゃ全然……!」
「うん、表面だけ削ってもスライム特有の再生力で無意味。
コアを壊さないと永遠に倒せないタイプだね、これ」
──判断は下った。
この状況を打破するには、どうしても“近づく”必要がある。
そして、それは同時に“被弾リスク”を孕むことも意味していた。
「……しょうがない、じゃあ少しリスク取るね」
まどかが、静かに息を吸い込む。
「使用──《イリュージョンステップ》」
宣言と共に、まどかの影がはじけるように分裂した。
左右に跳ねる二体の分身──見た目も動きも、完全に“本物”と区別がつかない。
「っ、まどにゃん、それ……!」
いろはが思わず叫ぶ。
《イリュージョンステップ》は、ただの分身スキルじゃない。
──分身1体ごとに、使用者の最大HPの20%を消費。最大で2体。
さらに、それで消費したHPは、スキル使用後5分間は回復が一切無効になる。
分身を2体出したまどかはこれから5分間、最大HPが40%も削れた状態で戦う必要がある。
▶ 分身!? トリックスターの新スキル!?
▶ これってまさか、HP消えてる??
▶ 攻撃食らったらやばいやつじゃ……?
「こっから全部避けるつもり!? 無茶だよ、まどにゃん!!」
いろはの声が震える。
「……無茶でも、通すしかない」
その一言に、いろはは言葉を飲み込んだ。
分身には攻撃力はなく、あくまで目眩しのデコイ。
だが──それで十分。少しでもタゲを分散できればその分攻撃に回せる。
自分への攻撃は……全部避ければいい!!
七属性のキメラドラゴンスライム。
その胴体に、翼に、首に、核のように光るコアが浮かんでいる。
すべてを潰さなければ倒せない。
そして、そのすべては──あまりに深い懐に隠されている。
(近づけないなら──飛び込む)
まどかの足が弾ける。
目に見えぬ残像を残し、左右の分身とクロスするように敵の懐へ。
視界いっぱいに、スライムの魔法が、爪が、翼が襲い掛かる。
「いろは、支援とカメラは任せたよ」
──まどか、突撃開始。
視聴者の誰もが、息を呑んでその瞬間を見守っていた。
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◆《イリュージョンステップ》
自身と同じ姿・挙動を持つ分身を最大2体まで即座に生成するスキル。
分身は攻撃手段を持たず、敵のロックオンやターゲット誘導を一時的に引きつける“目くらまし”として機能する。
スキル発動時、分身1体ごとに最大HPの20%を消費。
消費した分のHPは5分間回復不可となるため、2体同時に展開した場合は、一時的に最大HPの40%を封じた状態で戦う必要がある。
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