第43話:ぬめる迷路と、にせドラゴン
2階層へ降り立った瞬間──
「うわ、じめじめしてる……」
視界の端まで、苔むした岩と水たまりだらけ。
あちこちから、ぐにゅ、ぬる……と不快な音が聞こえてくる。
──ここは、スライムだらけの層だった。
ノーマルスライム。
ポイズンスライム。
マグマスライム。
デビルスライム──
あっちを見ても、こっちも見てもスライムだらけ。
色も大きさもバラバラなスライムたちが、這いずり、跳ね回り、通路を埋め尽くしている。
「基本、避けていこう。戦闘は極力なしで」
「了解、まどにゃん!」
方針は1層と同じだ。
できるだけ敵を避け、最短距離で次の階層を目指す。
幸い、攻撃的なスライムは少なく、ほとんどの敵は無理して進むことができた。
──だが、足元のべたべたした地面が思った以上に進行を妨げる。
滑るし、ひっつくし、立ち止まると足元にスライムがまとわりついてくるし……
本当に厄介極まりない。
通路を塞いでいたポイズンスライムを、さくっと片付けようとした時だった。
一撃で倒れるはずのスライムはまどかの攻撃を耐え、反撃とばかりに毒液を吹きかけてきた。
「っ……猛毒!? これ、上位個体じゃん!!」
慌てて解毒ポーションを使い、ギリギリで持ちこたえる。
解毒が数秒遅れていたら、確実にスタート地点送りだっただろう。
▶ 危ないwwwwww
▶ さすがまどにゃん判断が早い
▶ 猛毒のHPの減る勢いえぐいwww
「こわ……。色が同じだと種類とか全然わかんないよ……」
いろはがぶるっと肩を震わせる。
「普通はどの狩場にいるかで代替予想はつくけど、一堂に集まるとこんなに厄介だとは……」
──しかもこの第2階層、地形自体が軽い迷路になっている。
ミニマップを念入りに埋めつつ、慎重に進んでいく。
方向を誤れば、同じ通路をぐるぐると回ってしまいかねない。
「……1人だったら、一生ここで迷子になってた……!」
「素直すぎる。タイムアップになったら出れるから大丈夫だよ」
「それだとクリア出来てないじゃん! いいもん私にはまどにゃんがいるもーん」
表情では呆れつつも、内心ちょっとだけ嬉しい。
▶ いろはの素直さ好きw
▶ まどにゃん有能すぎるwwww
▶ 迷路と足元スリップ、相性最悪だな……
途中、地雷のようなスライムの罠をかいくぐりつつ、
ようやく2階層の最深部へとたどり着く。
そして──そこにいたのは。
「……な、なんか……でっかい……!」
中央に鎮座していたのは、半透明の巨大なドラゴン──の姿を模した、異形のスライムだった。
「ドラゴン……!?」
「いや、よく見て、いろは。あれ、ぜんぶ、スライムだよ」
スライムたちが合体した、キメラスライム・LV43。
体内には色とりどりのスライム核が輝いており、動くたびにグニャグニャと体を自在に変化させる。
ドラゴンとはいえ所詮はスライム。……なんて余裕は一切ない。
スライムの脅威は先ほど十分に味わったばかりだ。
「油断せずにいくよ。」
「とうぜん!」
──2階層、ボス戦開始。
▶ ドラゴンきたー!!
▶ これ絶対強いやつじゃん
▶ また格上相手か、期待してるぞまどいろ!




