第29話:王座の影に
──イベント開始から、30分が経過した。
【公式実況視点/全体概況】
特設フィールドの各地で、参加者たちはそれぞれのやり方で着実に宝石を集め続けていた。
コノエは、墓地エリアでひたすら一定のペースを守り続ける。
高レベルモンスターを、冷静に、正確に、無駄なく狩る姿勢に乱れはない。
視聴者への説明も逐一完璧にこなし、そういうNPCだと言われれば納得してしまうほどの完成度を誇っている。
▶ コノエさん、まるで精密機械みたい……
▶ クールな魔法運用が癖になる
ソラも、断崖の上を移動しつつ、静かにモンスターを狩り続けていた。
完璧な射撃精度を維持したまま、地道に宝石を積み重ねる。
未だ誤射はなく、何より1度もモンスターに攻撃行動をとられていない。
まさに無音のハンターに相応しい振る舞いと結果を残している。
▶ ほんとに無音で進んでるのが逆に怖いw
▶ でもこの地道さが勝敗を分けるよなぁ
フィーノたちフィー農場の3人は、平原を手分けして探索。
敵と遭遇した際だけ連携して討伐、堅実な積み上げを続けている。
かと思ったら急に3人で歌いだしたり、陽気な3人組を披露している。
▶ なんだかんだ一番ストレスなく見られる枠
▶ 農場民の組織力やべぇ
▶ なんで合図もなく全員同時に歌いだすんだよw
サロロ組はというと──相変わらず自由奔放。
ロロが突撃し、サーシャが止め、またどこかで宝石を拾い、ハプニングを起こしつつも、地力の高さでなんとか状況を立て直していた。
なぜまだ1度も死んでいないのが不思議なくらい瀕死になりつつも、しっかりポイントを稼いでいる。
▶ 今日もサロロ劇場が絶好調w
▶ でも地味にポイント稼いでるの笑う
【まどいろ視点】
まどかといろはも、計画通り順調に進んでいた。
森の中を慎重に進み、ミニマップを塗りつぶしながら、
途中出現するモンスターもきっちり処理して宝石を回収していく。
「結構時間かかっちゃったけど……その分、いい感じに集まったね」
「うんうん!まどにゃん、今のところ完璧だよ〜!」
進むにつれ、敵のレベルも少しずつ上がってきていた。
手強くはなってきているが、二人の連携は安定している。
やがて、目指していた人工物──小さな城跡地が姿を現した。
石造りの壁はほとんど崩れ落ち、荒れ果てた瓦礫の山になっている。
しかし、その中心部──かつて王座があったであろう広間跡には、明らかに異質な光景が広がっていた。
「……あそこ。宝石、飾ってある」
瓦礫の中心に、煌めく宝石がいくつも並べられている。
誰がどう見ても、「ここを目指して来い」と言わんばかりの露骨な配置だ。
「うさんくさいにもほどがあるよね、これ」
「でも、あれを無視するわけにも……」
慎重に、警戒を怠らず近づいていく二人。
──その瞬間。
地面が、不自然に盛り上がった。
「っ、来る!」
ボコボコと地面を破って現れたのは、全身を岩と金属で覆った巨大なゴーレム。
宝石の守護者、いわば門番役といったところだろうか。
ステータス表示には、LV40の文字。
──このステージで遭遇するモンスターの中では、最高難度クラス。
「……でも、即死トラップとかじゃなくてよかったよ」
「うんっ!モンスターなら、倒せる……!」
宝石を前にして、逃げる選択肢などない。
二人はナイフと魔導具を手に、真正面からゴーレムへと向き合った。
──勝負、開始。