第2話:毒沼のトラブルメーカー
ダンジョンというものに挑むのは、これが初めてだった。
まどかは拠点街から南へ向かい、
初心者向けのダンジョン《コルニア草原洞》へと足を運ぶ。
推奨レベルは22。今の自分と同じ。まさに最初の壁として用意された場所だ。
「いきなり変なギミックとか出ませんように……」
ナイフを軽く振って感触を確かめながら、ダンジョンの入口へと歩を進める。
内部は自然洞窟と人工構造が混在したような空間で、陽の当たらない薄暗さが緊張感を増幅させる。
だが、これまで地道に鍛えてきた基礎がある。
「まずは右壁に沿って、罠チェック……」
慎重に、着実に。
壁際のスイッチ式罠をスルーしつつ、出現する小型モンスターを手際よく処理。
HPの管理もアイテムの消費も最小限で進めていく。
「よし、順調順調……」
初めてにしては悪くない。まどかはそんな実感を胸に、進路の先に現れた広い空間に足を踏み入れた。
ぽっかりと開けた空間の奥には、妙に色の悪い地面が広がっている。
「あれ……もしかして、毒沼?」
反射的に立ち止まる。
案の定、集中して視点を合わせると地面から微弱な毒素のエフェクトが立ち上っていた。
「気づけてよかった……あれ踏んだら洒落にならないな。」
そう思った次の瞬間。
「ちょ、ちょっと待って!? うそ、ここも毒だったの!? 回復回復……あれ? あれ!?」
視界の端。
毒沼に思い切り転がり落ち、バタバタともがいているプレイヤーの姿が飛び込んできた。
「あの動き……まさか、毒沼に気づかず突っ込んだの……?」
手際があまりにも悪い。
スキルのタイミングもずれてるし、ポーションはうまく使えていない。
ジャンプの方向も明らかに誤っていた。
「……あー……やばそう」
まどかは即座に駆け出し、毒消しポーションをショートカットから投げる。
さらに回復アイテムも追撃。救援行動は最小限の動きで完了した。
数秒後、毒沼から這い出してきたそのプレイヤーは、へなへなと崩れるように地面に座り込んだ。
「……た、助かった……! うぅ、でもプレイヤースキルの差を見せつけられた気がする。」
素直な反応に思わず苦笑いしつつ、まどかはきつめの一言を返す。
「まずはプレイヤースキルどうこうより、マップの特徴を覚えるとこからかもね・・」
「うっ、手厳しい……でも、ほんとにありがとう。私、もうちょっとで死ぬとこだった」
崩れたような姿勢のまま、ふわっと笑ったその子は、まどかと同じくらいの年頃に見えた。
「私、いろはって言います! LVは22! 人気配信者目指して修行中!」
「同じレベル、って、え? 配信者?」
まどかの眉がぴくりと跳ねる。
「うんっ! あのね、かっこいい配信者になりたいんだ! まだ全然知名度は低いけど、毎日やってる!」
「……それって、さっきの戦い方で?」
「うん!! まだ慣れてないけど、カメラ位置とか頑張って研究してるし、あとBGM選びも命かけてる!」
「すごい……」
言葉が口をついて出た。
正直、戦い方はひどかった。
スキル構成も非効率で、知識も浅い。
けれど、話す時の声が、目の奥が、あまりにもキラキラしていた。