第25話:いつも通りに
WLAの通常サーバーとは明らかに異なる、白銀の空間。
どこまでも続く光の大地。宙にはデジタルの虹が幾重にも交差し、
中心には巨大な浮遊リング型ステージがゆっくりと回転している。
ここが、特別イベント専用の大会MAP──《スタープラットフォーム》。
「転送、完了……っと」
まどかが目を細めながら辺りを見渡す。
いろはもすぐに隣に現れ、わっと声を上げる。
「うわ、なにここ……めちゃくちゃキレイ……!」
2人の視界の右上には、いつものように配信UIが表示されている。
今回は特別仕様で、大会の公式チャンネルでも並行配信が行われるため、
ゲーム全体の注目度も格段に高い。
「皆さま、ようこそお越しくださいました──」
天井から響くような柔らかな女性の声。
公式MCによる進行が始まった。
『ネクスト スター アーカイブ』、まもなく開幕です!
今、ここに集うのは──
このWLAから生まれ、配信という舞台で頭角を現してきた5組の挑戦者たち。
配信者としての総合力を競う3つの競技を通して、
“次世代の星”の座を争っていただきます!
競技内容はまだ、観客・視聴者の皆さんと同じく、5組の参加者にも伝えられておりません!
「ルール不明ってやっぱ緊張するよね……」
「うん。まあでも、条件はみんな一緒だし、って思うしかないよね」
──まもなく、円形ステージの中央に、柔らかな光のホログラムが浮かび上がる。
その中で、アナウンスの声が一段と明瞭になる。
「それでは──ここで、今回この舞台に立つ、五組の参加者たちをご紹介いたします」
MCがそう宣言すると、舞台の上の参加者1組ずつにスポットライトが当てられ、順に紹介がなされていく。
「まず一人目。
ソロ魔導士、コノエ選手。
彼女は“システムセージ”という派生職を扱う、解析と知識のスペシャリストです。
そのプレイスタイルは極めて合理的かつ無駄がなく、すべての行動に意味があると言われています」
「戦闘中も、自らのスキルや効果を丁寧に解説しながら戦う姿はまさに分析魔導士そのもの。
感情を抑えた話し方ながら、逆にその冷静さが視聴者の“脳に刺さる”と評判です。
視聴者からの信頼と安定感、そして冷徹な判断力──彼女がこの大会で見せる立ち回りに、注目が集まっています」
「続いて、二人目──
もう一人のソロ参加者、弓使い・ソラ選手。
ほとんど喋らない、コメントも滅多に返さない。
ですがその代わり、無言で魅せるという異色のスタイルで根強い人気を誇っています」
「最小限の動きで最大の成果を生む。
無駄を削ぎ落とした構成力と、黙して語らぬ職人型の狩人。
チャージショットのタイミング、敵の動きの予測精度、その一つひとつが洗練されています」
「言葉で伝えずとも、彼のプレイそのものが語る──
静けさの中に熱を秘めた、まさに“沈黙のアーチャー”です」
「そして三組目は、最近お騒がせの新進気鋭!
まどか&いろはのコンビ、“まどいろちゃんねる”!
配信歴は今回参加者の中で最短ながら、それを感じさせないほどの成長スピードで、いま注目の2人です」
「まどか選手は演出と錯乱を組み合わせた“トリックスター”、
いろは選手は派手な魔法演出と支援を得意とする“エンチャンター”。
それぞれが違った個性を持ちながらも、掛け合いのテンポと戦闘での連携が抜群のコンビです」
「視聴者とのやり取りや表情の豊かさも見どころ。
戦うだけじゃない、魅せる・笑わせる・届ける──そんな“配信者としての全力”を持つチームです」
「四組目は、三人組の堅実派──
フィーノ率いる“フィー農場”の皆さんです」
「元々はまったり農場ライフを配信していた彼らですが、
戦闘職に転向してからは、構成と連携の安定感で一気に評価を上げています」
「タンク役のフィーノ選手は常に冷静に戦況を見渡し、格闘家ユーリ選手は直感と力で敵を圧倒、
そして回復役クレア選手はおっとりした見た目からは想像できない戦況把握力を見せてくれます」
「華やかさよりも“安定と堅実さ”──その力が大会という舞台でどう活きるのか、見逃せません」
「そして最後、五組目は──
サーシャ&ロロによる、爆発系トリックデュオ、“サロロでGO”!」
「一見すれば、ロロ選手の奇抜な言動と支離滅裂な動きに振り回されるサーシャ選手、という構図ですが、
それが逆に絶妙なバランスを生み出しています。いわば“温度差芸”の完成形とも言えるでしょう」
「ロロ選手は聖職者でありながら物理攻撃や爆弾攻撃も織り交ぜ、
突然の小ネタや叫び声で配信をカオスに染めつつ、回復支援はしっかりこなす実力派。
サーシャ選手は冷静かつ堅実な両手剣戦士だがロロ選手の前では保護者そのもの! そのギャップが最大の魅力です」
「破天荒と堅実のバランス、
どこで何が起きるかわからない、その爆発力に期待が集まっています!」
──MCの紹介が終わると、中央ステージが静かに光を収め、
会場の空気が一瞬、ぴたりと静まる。
「以上、五組──それぞれのスタイルと想いを胸に、この特別なステージへと立ちました」
「……では……! これより『ネクスト スター アーカイブ』、いよいよ競技開始です!」
「……はじまるんだね」
まどかが小さく呟く。
「うん。がんばろう、“いつも通り”を、ちゃんと届けよう」
「そうだね。“いつも通り”、最高を魅せる。それが私たちの仕事だもんね」
こうして、“次世代の星”を決めるイベント、ネクスト スター アーカイブは幕を開けた。




