第22話:薔薇でバラバラ!?
「それじゃ、まどにゃん……お披露目、行っちゃおっか!」
いつものログイン広場から移動し、2人はフィールドの奥──
推奨レベル30の中規模ダンジョン『コボルトの砦』へと到達した。
この砦は、敵の密度と動きの素早さに特徴がある場所。
小柄な獣人型モンスター「コボルト」が、狭い通路や段差を活かしながら集団で襲ってくる。
だが今日の主役は、そんな雑魚どもじゃない。
【配信タイトル:トリックスターまどにゃん、初陣!コボルト砦を蹂躙する!】
最初のグループは3体。斧持ちと槍持ち、それに魔法弾を飛ばす術師型のコボルト。
「じゃ、派手に行こうか」
まどかの言葉と同時に、ナイフを逆手に構える。
装備も転職と同時に変化した。黒を基調に、赤と銀の差し色が軽やかに舞うような衣装。
それだけで、目を奪われるような存在感。
まどかが踏み出すと、ナイフの軌跡が空に真紅の線を描く。
敵の間を斜めに駆け抜けると、その紅いラインが一瞬静止し、次の瞬間──
《スカーレットライン》
ラインが薔薇の花びらのように弾け飛び、3体の敵が一斉にのけぞった。
▶ え!?今の何!?
▶ 線が薔薇になってバラバラに!?
▶ ちょっとちょっと見直すから巻き戻す!
▶ これは間違いなく魅せプ職
「次、くるよ」
斜めに跳ねて間合いを取ると、まどかの手元に光の粒が集まり始めた。
「これは……遠距離スキル?」
《イリュージョンリリィ》
まどかが指を弾くと、5本のナイフ状の幻影が空中に現れ、
舞うように敵に向かって弧を描いて飛んでいく。
ナイフが当たった瞬間、命中地点に白い百合の幻影が一瞬だけ咲き──ふわりと消えた。
術師型コボルトがノックバックし、そのまま魔法詠唱が中断される。
▶ 遠距離もいけるようになったのか。
▶ 演出が詐欺師というより貴族なんよ
▶ キザっぽいけど妙に似合ってるんだよね……
次に飛び出したのは槍型の敵、ランサーコボルト。
斜めから突っ込んできた瞬間──まどかはその突きを軽くジャンプで避け、空中で身体を反転させた。
着地と同時に発動。
《トリックフェイント》
直線的な動作で斬りかかると見せかけ──
ナイフは空を切り、その刹那に背後からもう1本の幻影の刃が敵の脇腹を突き上げた。
▶ 流石にそのフェイント反則だろ
▶ 幻影刃の挙動エグいな!?
▶ バラまいて百合飛ばして幻影で刺す…何者だよ…
それからのまどかは、まるで舞台の主役のようだった。
一歩進むごとに、スキルの演出が切り替わる。
ナイフの軌跡、動き、エフェクト、敵の崩れ方すら、すべてが“演出”として映える。
普段なら、支援と演出のバランスを取りつつ戦ういろはも、今日は控えめ。
まどかの活躍を後方から支えるだけに留めている。
「いいよ、まどにゃん。すっごくかっこいい」
いろはのその一言に、まどかは少しだけ口角を上げた。
「……あんまり持ち上げすぎると、調子に乗るけど?」
コボルトたちは数の多さこそ厄介だが、所詮は雑魚の延長。
それでも、演出だけでなく実戦性能を見せつけるまどかのトリックスターは、
1体また1体と、華麗に敵を切り倒していった。
砦の内部、中央広間に入るころには──
「……もう、ほとんど終わってるね」
「主役の初舞台、派手にキメたね、まどにゃん!」
広間で待ち構えていたボス格の大型コボルトすら、
スカーレットラインとイリュージョンリリィの合わせ技で為す術なく崩れ落ちた。
▶ トリックスター、演出だけじゃなくてちゃんと強いのやばい
▶ 近接のくせに距離感トリックで翻弄してくるのズルい
▶ まどにゃん、完全に主人公だったわ今日
「……ふぅ」
演出と戦闘が重なると、思ったより集中力がいる。
でも、不思議と疲労感はなかった。
配信の向こうから、誰かが見てくれている。
その実感が、心地よい緊張感と、満足感を生んでいた。
「じゃあ、砦落とし、完了ってことで──」
「本日の“まどにゃん大勝利”でしたっ!」
カメラに向かって、いろはが元気にピースをする。
まどかも、今日は少しだけ、その肩に寄りかかって──笑った。
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《スカーレットライン》
正面移動軌道に沿って斬撃を放つ近接スキル。軌跡に真紅のラインが残り、数秒後に薔薇の花弁のようなエフェクトで爆散。狭い範囲ダメージ+軽いノックバック。
《イリュージョンリリィ》
幻影ナイフを複数生成し、遠距離から扇状に射出。命中時に白い百合の幻影が咲く。ダメージは控えめだが、モーションの中断効果が優秀。
《トリックフェイント》
敵の視界を誘導しつつ、タイミング差で幻影のナイフを叩き込むカウンタースキル。




