第21話:解禁、妄想、皮算用
「やったぁああああああああああっ!!」
いろはの声が部屋中に響いた。
まどかのログイン画面の隅にも、見慣れないアイコンがピコン、と光っている。
「……登録者数、2000人突破。ねえ、これ本当に、私たちのチャンネル……?」
「ほんとだよ!! ついに……ついに来たね、まどにゃん……!」
昨日の配信でまどかが“トリックスター”へ転職した直後から、登録者は加速度的に伸びていた。
朝になって確認すると、ついに大台の2000人を超えていたのだ。
ちなみにWLAでは、配信者の登録者数が1000人を超えると、
課金マネーによる“ダイヤ投げ銭”が解禁される。
ゲーム内通貨の“コイン投げ”は誰に対してでも可能だが、
この“ダイヤ投げ”は現実のお金が関わる分、少し慎重な設定がされている。
配信者にとって、これの解放は一種のステータスシンボルでもあった。
「ついに……我らにも“キラキラエフェクト投げ”が飛んでくる日が……」
「ちょっといろは、目が遠くなってる」
実のところ、コイン投げはこれまでもちょこちょこと貰えていた。
どちらかといえば、いろはの“事故実況”や“元気コメント返し”が人気で、
まどかの方が静かに眺めているような感じだったが、それはそれで良いバランスだった。
「……ねえ、まどにゃん。もし仮に、月に……5000円分くらいダイヤ投げて貰えるようになったら、さ」
「ほう」
「わたし、あの翼付きローブ、買っていいかな!? あと、魔導具の光色変える課金エフェクトとか!!」
「私は……あれ、ナイフが光の羽根みたいに展開するやつ。
……名前忘れたけど、すっごいカッコよかった」
高校生という立場上、2人とも現実での課金は最小限に留めていた。
だからこそ──自分たちの活動で得た収入で装備を買うというのは、特別な意味があった。
「でも実際さ、どのくらい貰えるもんなのかな?」
いろはがベッドに大の字になって言った。
「うーん……聞いた話だけど、同じくらいの登録者数でも、月に数万円もらえる人もいれば、ほぼ0って人もいるみたい」
「うわあ、格差社会だ……!」
「やっぱり視聴者層とか、配信スタイルによるんだと思うよ。
うちは実況より演出系だし、盛り上がりどころに投げ銭が集中するタイプかな。たぶん」
「つまり! 叫びどころをもう少し用意した方がいいってことだね!?」
「それは……うん、任せた」
しばし沈黙があり、
まどかがクールな表情のまま、ぽつりとつぶやいた。
「皮算用だけど……今のうちらの感じなら、月4000~5000円くらい貰えるじゃないかな?」
「っっ!?!?」
いろはがすごい勢いで跳ね起きた。
「そ、それってさ、月に1人分の課金衣装いけるってことだよね!?」
「まあ、最初のうちは波もあるだろうけど、現実換算ならバイト代クラスにはなる可能性あると思う」
「夢が広がるぅううう~~~~~!!!」
話はやがて「配信エフェクト演出の導入」「視聴者参加型のミニイベント」「背景演出の強化」などにまで発展し、
最終的に、いろはが「個人ハウスの庭に観客席作って公開演目やりたい!」という方向に暴走した。
「……ハウスはもうちょっと後で考えよ?」
「うぅ、現実に引き戻された……でも、いつか絶対やるからね!絶対だよ!」
2人の妄想は止まらない。
でも、確実に──未来への展望が、前よりもずっと“現実的”になっていた。
憧れだった配信者の背中に、少しずつ近づいている。
そして、自分たちの“色”で、世界を楽しませていけるかもしれないという手応え。
「さて……次は、どうする?」
「もちろん、“魅せる戦闘”でしょ! もっと映えて、もっと輝いて──
そのうえで、ちゃんと勝つ! それが私達、まどいろだもん!」
【まどいろチャンネル:登録者数 2107人】
次なる舞台は、既に始まっている。
キラキラの魔法と、トリックの刃で。
第2章、はじまりました。




