第19話:仮面の先にあるもの
《奇術師の仮面》
アイテム効果:職業 《トリックスター》への転職が可能になる
その文字がウィンドウに表示された瞬間、
まどかを含む四人全員が、固まった。
「トリックスター……?」
いろはが、小さな声で読み上げる。
「派生職だ……しかも、シーフからの」
ミナトが静かに呟き、サラが目を丸くした。
「えっ、でも、トリックスターって……今まで聞いたことないわよ?」
すると、次の瞬間、さらに一行の情報が表示される。
《この職業は、現在この世界において確認されていない未発見の状態です》
《対応アイテムの使用により、存在が確定されアクティブ化されます》
▶ うわあああ初確認職業きたーーー!!!
▶ トリックスター!?そんな職あるの!?
▶ ガチでまどにゃんが最初の1人!?
▶ え、やば、歴史動いた瞬間じゃん……
▶「まさか……初確認の、職業……?」
ゲーム開始から約4ヶ月。
職業の派生ルートはいくつか確認されてきたものの、まだ全容は明らかになっていない。
条件不明の職業も多く、転職アイテムですらその存在が稀少。
そんな中で──今、まどかが手にしているのは、この世界でまだ誰も到達していない職業の鍵。
まどかの憧れの存在詠月ルナも剣士の派生職、ダブルブレイカーへと転職しており、
こちらも、2か月ほど前にルナが発見して以降、次の転職者はいまだ生まれていない。
「……どうするの、まどにゃん?」
いろはが訊く。
「もちろん、使うよ」
即答だった。
「うん! ここでためらったら、配信者じゃないよねっ!」
まどかが 《奇術師の仮面》を手に取る。
ゆっくりと、その仮面を自らの顔に近づけ──
その瞬間、画面が暗転する。
【システムメッセージ】
▶ プレイヤーネーム 《まどか》は 《トリックスター》へと転職しました
▶ 《初代トリックマスター》の称号を獲得しました
▶ 新しいスキルを獲得しました
──空間が弾けるように開き、まどかの体が光に包まれる。
軽やかな音楽とともに、衣装が変化する。
ショートマントのような装飾、装身具のようなナイフホルダー、
そして袖元や足元には、軽快で演出的なフリルと刺繍が追加されていた。
見た目は確かにシーフの流れを汲んでいる。
しかしその動きは、もう“ただの盗賊”ではない。
演目の主役のように。舞台の中心で敵を翻弄する“道化”のように。
▶ えぐ……演出すごっっ!!
▶ 見た目やばいカッコいい……
▶ 称号までついてる!?!?
▶ まどにゃんが、主役の衣装をまとった感じする……
▶ トリックマスターって響き好き
さらに、最後のシステムメッセージが、画面上に浮かぶ。
《プレイヤー 《まどか》により、職業 《トリックスター》がアクティブ化されました。》
《職業 《トリックスター》をワールドのアーカイブへと登録します》
静まり返る一瞬。
全員が、その言葉の意味を噛みしめる。
ワールドリンクアーカイブ──このゲームの名のもう1つの由来。
この世界の“記録”と“歴史”が、プレイヤーの手で更新されるという仕組み。
いま、まどかが選んだ行動が、
この世界に「トリックスター」という職業の存在を初めて刻みつけたのだった。
「……すごい、ね。ほんとに、記録されちゃった」
まどかが、やや呆然としたまま言葉を漏らすと、
隣にいたいろはが、にっこり笑った。
「うん、まどにゃんはね、そういう人なんだよ。
ただの“推し活”で入ってきたのに、気づいたら……主役になっちゃう人」
「……主役って感じじゃないけど」
「いいの! 今の、すっごく絵になってたから!」
▶ いやこれ、まじで伝説回だよ……
▶ 推しから始まって、世界の記録を更新するって物語すぎる
▶ トリックスターって響き、まどにゃんにぴったりすぎる
▶ ありがとう、まどいろ……!
まどかの手には、ナイフ。
その立ち姿は、数分前までの“シーフ”だった彼女と、まるで違って見えた。
そしてその姿は、間違いなく──
このゲームにとって、新たな“始まり”だった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ここで第1章終了となります。
この後軽く1章のエピローグを挟み2章を開始していきます。
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