第18話:その仮面が示すもの
「おかえりなさい。無事だったようで、何よりです」
鉱石を満載した袋を手に、まどかといろはがミナトとサラの待つ拠点に戻ると、
ミナトが落ち着いた声で出迎えてくれた。
「もちろん、完璧にこなしてきたよ。素材も上物ぞろい」
「うちのまどにゃんが絶好調でね~! ゴーレムもペチペチ切り刻んでたよ!」
「ペチペチ……って表現、なんか嫌なんだけど」
袋を開け、中身を見せると──ミナトの目がわずかに見開かれた。
「これは……黒鉄!?」
「お、やっぱ珍しい感じ?」
ミナトは鉱石を手に取り、陽の光にかざす。
重く、鈍く光る黒鉄の表面には、微細な筋が走っていた。
「うん、このレベル帯ではなかなか見れない代物だよ。私も本物は初めてみました。
黒鉄は、魔力伝導率が極端に低い素材です。その分、魔法耐性の高い防具を作るにはうってつけですね。
もしよければ、これを使って2人の防具を強化しましょうか?」
「いいの? 是非お願いしたいです!」
「いい素材を使えばそれだけ経験値がおいしいですからね。 っと、じゃあ……さっそく加工に入りますね」
ミナトが鍛冶炉を起動し、手際よく準備を始めると、
サラはテーブルにポーションを並べながら、ふわっと笑っていた。
「それと、さっきの配信で宣伝してくれたお礼~。このポーション、サービスね!」
「えっ、いいの!? ありがとう~!」
「えへへ、これで次回は“まどいろ×ミナサラ”ってコラボタグつけてもらおうかな~?」
「サラさん、しっかりしてるなあ……」
強化作業は数分で完了。
受け取った装備は、耐久が強化され、防御ステータスも一段階向上していた。
「黒鉄、防具に入れるとマジで違うね……手触りからして硬い感じがする」
「これで次の冒険も、ちょっと安心できそう!」
そんな中──いろはがふと思い出したように、ぽつりとつぶやく。
「……そういえば、あれ、そろそろ終わる頃じゃない?」
「あれ?」
まどかが問い返すと、いろはが目を丸くして手を打つ。
「昨日の……ダンジョンボスが落とした、???アイテム!」
「ああ──そういえば、鑑定士に出してたんだった。ちょうど1日経ってるし、もう終わってるかも」
未鑑定アイテム。
その中身は、レア以上が確定しているというだけで、正体は一切分からない。
町にある鑑定士に預けて丸一日。いよいよ結果がわかるタイミングが来たのだ。
「せっかくだから、配信で発表しよっか」
「いいねっ! サラさんたちも一緒に行こうよ!」
「それ、地味に緊張するやつだよね。もし中身がしょぼかったら……」
「……気まずいね~、あはは」
というわけで、さっき一度終わったばかりの“まどいろちゃんねる”を再び立ち上げる。
【配信タイトル:『???アイテムの正体がついに判明!?』】
「こんばんは、ふたたびお邪魔します! “まどいろちゃんねる”後夜祭だよ~!」
「さっき鉱山で黒鉄とか拾ってきて、装備も強化済みです。
で、いまから……昨日の未鑑定アイテム、結果を見に行こうかと思います!」
「今回は私たちの新しい仲間!専属契約の鍛冶屋ミナトさんと、錬金術師のサラさんにも一緒に来てもらってます!」
「どうも、鍛冶屋のミナトです。配信は不慣れですが……よろしくお願いします」
「はいはーい、サラでーす! 今日は視聴者目線でワクワクしてるよ!」
▶ おお、ついに裏方組きた!
▶ ミナトさん落ち着いててかっこいい…!
▶ サラさんノリいいな、配信とかしてるのかな?
そんな感じで反応も上々、和やかにオープニングを終えると、
4人は連れ立って、街の中央にある鑑定士の元へ向かった。
受付の女性NPCが、小さく頷いて言う。
「お預かりしていたアイテムの鑑定が完了しております。どうぞ、こちらです」
彼女が手渡してきたのは、深紅の封筒のようなウィンドウ。
中には──白く光るアイテムの名前が、ひとつだけ、はっきりと記されていた。
【奇術師の仮面】
アイテム効果:職業への転職が可能になる
「……っ!」
表示された瞬間、空気がすっと張りつめた。
ミナトとサラが驚いたように顔を見合わせる。
いろはが声をあげかけて──何かを感じ取ったように、口を閉じた。
その中央で、まどかは、仮面の名を静かに見つめていた。




