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第17話:気持ちよかった

 「じゃあ、いつも通り──私が前に出るね」


 「了解、まどにゃん支援は任せて!」


 3メートルを超える漆黒のゴーレム。その巨体が地を鳴らしながら立ち上がった瞬間、

 まどかがすかさず二連歩で踏み込み、距離を詰める。


 ナイフがその岩の腕を斬る──


 「……固っ」


 「え!? ダメージ、通ってる?」


 「うん、通ってる。……けど、たぶん昨日のボスより防御高いかも」


 「えええ~~!? それってやばいやつでは!?」


 「……全然余裕。むしろ、気持ちいいかも」


 まどかの口元が、少しだけ笑みにゆがむ。

 そう──昨日ミナトが強化してくれたナイフの性能が、さっそく効いている。


 通常攻撃でも手応えがあり、スキルによる斬撃は着実にHPバーを削っていく。


 「受け流しっ! ……からの、関節部狙い!!」


 ゴーレムの攻撃が一瞬逸れたタイミングで、さらに踏み込んで急所を狙う。

 その動きはまさに“観られる戦い方”そのものだった。


▶ ナイフつよっ!?

▶ まどにゃん超乗ってるじゃん!

▶ シーフの爽快感がこれ……!


 一方、後方支援のいろはは、いつものように片手杖を構えていた。


 「虹色の炸裂符!」


 魔法が放たれる。だが、ゴーレムの表面をかすめるだけで、HPバーはほとんど動かない。

 デバフ効果に至っては発動すらしていないように見える。

 

 「え~~、ちょっとぉ!? 効かないじゃん!」


 焦り混じりの不満が口を突く。


 エンチャンター──支援魔法と演出魔法の中間を担う職。

 攻撃も回復もできるが、どれも専門職に比べると一段落ちる。

 

 それでもいろはがこの職を選んだのは、「演出が派手だから」。

 視聴者を楽しませる戦いをしたかった。ただそれだけで、迷いはなかった。


 「……よし、じゃあ映えに全振りする!」


 いろははすぐさま思考を切り替えた。

 いま、火力が必要なのは自分じゃない──まどかの斬撃に“魔法の演出”を添えること。


 「《陽焔の輪》《光彩符》《戦鼓の印》──まどにゃん、今が一番かっこいいよー!!」


 彼女の魔導具が次々に光を放ち、まどかの周囲を彩る。

 戦闘エフェクトはより煌びやかに、動きが目に焼き付くようなスピード感とコントラストで包まれていく。


▶ いろはの演出バフ神すぎる

▶ エンチャンターはこれだから見てて楽しいんだよな

▶ まどいろってこういう役割分担うまいよね……


 まどかのナイフが、ゴーレムの岩装を割っていく。


 そして、口元に笑みを浮かべたまま──


 「《絶影》、展開!」


 高速化の奥義スキル。

 そこからまどかは、防御という発想を切り捨てた。


 「もう、いけるだけいくよ……!」


 ナイフが視認できない速度で飛び、足音ひとつなく地を駆け抜ける。

 いろはの光が動きに軌跡を加え、連撃の一閃一閃がまるで舞うように映る。


 「《終絶》──!」


 フィニッシュ。


 光が弾け、ゴーレムの巨体が音もなく崩れ落ちる。


 「……あーっ、気持ちよかった……」


 スキルの効果が切れると同時に、まどかはその場にぺたんと座り込んだ。

 肩で息をしながら、顔を赤らめて笑っている。


 「ちょ、まどにゃん……顔! 顔やばいって!!」


 「……いや、だって、ね? 強化ナイフで、あの手応え……楽しくなっちゃって」


 「配信だってこと、忘れかけてたでしょ」


 「ちょっとだけ反省。いや、だいぶ反省……もしあのゴーレムに変なギミックでもあったら、私、一発で沈んでたかも」


 ナイフを収めながら、まどかは真面目に呟く。

 戦いはうまくいった。でも、“うまくいった”からこそ浮かび上がる慢心。


 「でもまどにゃん……すっごくかっこよかったよ。

 うん、ほんと、すごく“まどにゃんらしかった”!」


 「それ、褒めてる?」


 「もちろんっ!」


 倒れたゴーレムの残骸の中からは、

 鉄鉱石が4つ、銀の欠片が2つ、そして──黒く鈍く光る鉱石がひとつ。


 「これ……黒鉄?」


 「うわー、初めて見たかも……ミナトさん喜びそうだね!」


 「じゃあ、しっかり袋に詰めて、他の鉱石と一緒に見てもらおっか」


 いろはがポーチを広げ、採掘品をまとめて収納していく。

 まどかは、ゴーレムの倒れていた地面をひとつ見渡して、そっと呟いた。


 「なんか……いいね。こういうの」


 「うん。戦って、掘って、喜ばれて──まさに“冒険者”って感じ!」


 「じゃあ、帰ろっか。これで、配信もおしまい。みんなまたねー」

 

 ▶ おつまどいろ~

 ▶ 格上のレアモンスとか普通はもっと苦戦するんだからな?

 ▶ おつまろ~

 ▶ もう少し恍惚窓にゃんを眺めていたかった。

 

  

  ……待って?今なんか変な略し方した人いなかった?

  

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 《戦鼓のせんこのしるし

使用者の詠唱と共に空間に打ち出される魔力の印。

一定時間、味方の周囲にリズムに合わせた鼓動音と光のエフェクトが発生し、与ダメージをごくわずかに上昇させる。

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