第16話:鉱山の奥で待つもの
「みなさんこんにちはー! 本日も“まどいろちゃんねる”スタートです!」
「まどかです」
「いろはですっ! 今日はいつもよりちょっとお知らせ多めでいくよー!」
カメラに向かって笑顔で手を振るいろは。その横で、まどかが少し照れたように息を吸い込んだ。
「まずは──昨日、初めての格上難易度ダンジョンをクリアしました。見てくれた人、ありがとう!」
「配信もすっごく盛り上がって、登録者数も一気に増えて……ほんとに感謝ですっ!」
「で、今日の本題なんだけど……実は、私たち──専属契約、結びました!」
配信画面にテロップが流れる。
【契約成立!まどいろ×ミナト&サラ】
「昨日の配信を見て声をかけてくれた鍛冶屋のミナトさん、そしてその相方の錬金術師サラさん。
この二人が、装備の強化とか、アイテムの調達とか──いろいろサポートしてくれることになったの!」
「もうね、ナイフの強化、まじでヤバかった。バチバチに仕上がってるからね。後で使ってみせるから!」
「お礼も兼ねて、今日はふたりからお願いされた素材集めに来てます!」
というわけで、現在の配信場所は──
【現在地:採掘エリア《アルバ鉱山群》】
推奨レベル29。
昨日のダンジョンでそれぞれレベル30と29に到達した二人にとっては適正レベル帯。
プレッシャーの少ない空間で、ちょっとした“冒険者らしい日常”を見せられるチャンスでもあった。
「敵もいるけど、昨日に比べれば全然余裕だね」
「よーし、がんばって鉄鉱石20個、集めちゃうよー!」
鉱山内には、岩肌の間から湿気を帯びた風が吹き込んでいた。
所々に苔や鉱脈がむき出しになっており、いかにも“掘ってください”といわんばかりの雰囲気。
敵も登場する。
足元から飛び出してくる岩トカゲ、天井から音もなく滑空してくる鉱石蝙蝠、そして土塊のような姿をした土ゴーレム。
「二連歩──からの、急所狙い!」
まどかのナイフが岩トカゲの背に突き刺さる。
いろははその後方で補助魔法を展開しつつ、蝙蝠を牽制する魔力弾を放った。
戦闘はスムーズ。
そして、敵を倒しながら、時折足を止めて周囲を確認する。
「……あっ、これ鉱石じゃない?」
「ん、どれどれ……おお、いろは、見る目ある」
「えへへ、なにげに鉱石運あるのかも!」
「というかこの色と質感、鉄鉱石の中でも上位のやつじゃない?」
「……まどにゃん、鉱石にも詳しいの?」
「推しがクラフト職について語ってた配信、全部チェックしてたから」
「うわー、そっち方面の推し活も濃い!!」
▶ この軽めの回もいいなー
▶ 鉱山探索って思ったより映えるんだよな
▶ いろはの鉱石センサー地味に有能
▶ まどにゃん何でも知ってるな……
順調に集まる鉄鉱石。
画面右上の採集目標カウンターは、「17/20」を示していた。
「あとちょっとだね!」
「うん、ラスト数個……だけど、せっかくだし奥にも行ってみようか」
会話をしながら通路を抜けた先。
そこはやや広めの空洞だった。天井も高く、音が反響するほどの空間。
そして、その奥に──巨大な影。
「……でかいのがいる」
3メートルを優に超える、全身が黒く硬質な岩でできたゴーレム。
動かず、こちらを見据えている。
「でも、ゴーレムならさっきも……」
まどかが一歩前に出て、ナイフをかざす。
そして、スキルを展開する──
「《敵性解析》──!」
頭の中に浮かぶ情報ウィンドウ。
【名称:黒鉱の変異体ゴーレム(Lv33)】
分類:レア個体/特殊耐性あり
「……レア個体だ」
「え、マジ!? あの名前に色ついてるやつ!?」
「うん、強さは……昨日のダンジョンボスほどじゃないけど、普通のゴーレムよりはるかに格上。
でも──私たちも、昨日とは違う」
「まどにゃん……」
「それに今、配信中だよ? 逃げる選択肢なんて、ないよね」
「ないね。うん、ない!!」
2人の間で視線が合う。
敵は動かない──でも、気配だけで、実力は察せる。
まどかはナイフを構え直し、そっと息を吸い込んだ。
「いくよ──やってやろう!」
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《敵性解析》
冒険者職であればだれでも持っているスキル。
敵の名前とLV、簡単な特徴がわかる。
敵のレベルが高すぎると正確に表示されない場合もある。




