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第15話:契約成立

 「それじゃあ、強化……始めるね」


 ミナトがそう言って、ナイフを手に取った。


 《ブレイザークロー》。

 昨日のボス戦で手に入れた新しいナイフ。

 それを強化する──いわば“本当の完成品”に仕上げる工程が、今この目の前で始まろうとしていた。


 ミナトが取り出したのは、携行型の小型炉。

 彼女はそこに火を入れ、温度を確かめるように指を近づける。


 「温度……いい感じ。じゃあ、素材を……投入」


 ポーチから取り出した数種の鉱石を投げ込む。

 そして右手に構えたハンマーが、ゆっくり、だが確かなテンポで振り下ろされる。


 「カン……カン……カン……」


 その音は軽やかだけど芯が通っていて、リズムが一定。

 どこか心地よい拍子で続いていく。


 「……すごい」


 思わず、いろはが呟いた。

 まどかも頷く。素人目にも分かる“安定感”。迷いのない所作と正確な力加減。

 ただのパフォーマンスではなく、積み重ねられた鍛冶経験の結晶だった。


 「できた」


 最後のひと打ちと共に、光がふわりと吹き上がる。

 ミナトが手にしていたナイフの表面に、淡い紋様が浮かび上がった。


 「攻撃力と防御貫通率が少し上がってる……!」


 「クリティカル発生率も上がってるよ!? わ、わーっ、これ配信だったらリアクションに困るやつ!」


 「嬉しすぎて動けない……」


 ナイフを受け取ったまどかは、実際に一度軽く振ってみた。

 刃の重みもバランスも、まさに“手になじむ”という言葉がぴったりだった。


 「満足いただけたみたいで、良かったです」


 ミナトが小さく微笑んだその時。

 隣にいたサラが、ひとつ前のめりに体を乗り出してくる。


 「じゃあそろそろ……営業トーク、入ってもいいかしら?」


 「営業トーク?」


 「うんっ。ここまで見てくれたなら、ミナトの腕は分かってもらえたと思うんだけど──ここで1つ、提案があるの」


 まどかといろはが顔を見合わせる。

 サラは真剣な顔になって、少しだけトーンを落とした。


 「私たちと、専属契約を結ぶつもりはない?」


 「専属……?」


 「って言っても、システム上の強制力があるわけじゃないの。

 ただ、“困った時に頼り合える関係”を、お互いに持ちませんかってこと」


 サラは手のひらを軽くひらひらと動かす。


 「たとえば、まどにゃんたちが装備とかアイテムで困った時は私たちが優先的にサポートする。

 逆にこっちが素材集めとかで困ったら、手を貸してほしい。

 お金の面でも優遇するつもりだけど、その代わりに──“宣伝”してもらえたら嬉しいなって」


 「なるほど……」


 話の内容としては、すごく理にかなっている。

 まどかたちは、成長中の配信者。装備やアイテムの強化・補充は継続的に必要になる。

 一方で、ミナトとサラは生産職。冒険者からの素材供給や認知度が、活動の支えとなる。


 「お互いに支え合える関係ってわけか……」


 まどかは少しだけ考えてから、口を開いた。


 「──いいですよ。契約、受けます」


 「ほんと!? ありがとう、まどにゃん!」


 「うん。鍛冶屋としてのミナトさんの腕は信頼できるし、

  サラさんのポーションも店売りのポーションより質がいいみたいだしね。」


 「なにより……なんとなくだけど、ウマが合いそうって思ったしね」


 「……それ、実はすごく嬉しいわ」


 サラが笑い、ミナトがほっとしたように頷いた。


 「じゃあ契約成立ってことで──さっそく、ひとつお願いしてもいいかしら?」


 「さっそく!?」


 「実はね、鉄鉱石。鍛冶に使う基礎素材なんだけど、かなり減ってて」


 「採掘依頼、ですか?」


 「うん。鉱山エリアで、20個ほど集めてきてもらえたら助かるの。

 そこまで危険な場所じゃないし、レベル的にもまどいろコンビなら余裕でしょ?」


 「なるほど……なら、今日の配信はそれでいこっか!」


 「行こ行こ〜〜! 鉱山って響き、ちょっとわくわくするよね!」


 依頼を受けた二人は、再び冒険者としての準備を整え、出発する。


 行き先は──採掘エリア【アルバ鉱山群】。


 装備は万全。配信の準備もOK。


 「さて、今日も映えるところ、見せちゃいますか」


 「まどにゃんの掘削姿、みんな見たがってるからね〜〜!」


 「それは誰情報!?!?!?」


 そんな感じで、まどいろの“新しい日常”が、またひとつ始まった。



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