第14話:はじめての繋がり
「え、ちょっと待って、これ本当に私たちのチャンネル!?」
翌日、ログインしてまず開いた“まどいろちゃんねる”の管理ページには、昨日とは桁違いの数字が並んでいた。
登録者数:812
「すご……昨日の配信で、300人以上増えてる」
「ていうか、まだジワジワ伸びてる……! コメントもめちゃ増えてるよ〜〜!」
昨日の格上難易度のダンジョン攻略。
《絶影》を駆使した怒涛のバトルと、視聴者の熱狂。
それがしっかりと形になって、数字として返ってきていた。
「……正直、びっくりだけど。でも、やったことを考えたら……ちょっとだけ納得かも」
「ねっ! まどにゃんめっちゃかっこよかったもん!」
いろはは、自分のことのように誇らしげに笑う。
その姿に、まどかも思わず口元をほころばせた。
「さて、今日の配信はどうしようか……この流れで何か続きがあるといいけど」
そんな相談をしていた矢先。システム通知が一件、ポップアップで届く。
【新着メッセージ:プレイヤー名 《ミナト》】
こんにちは。突然の連絡をお許しください。
私は生産職メインで活動している鍛冶屋の 《ミナト》と申します。
先日の“まどいろちゃんねる”の配信を拝見し、とても感銘を受けました。
そこで、お願いがあります。
昨日ドロップされたナイフ 《ブレイザークロー》、
もしよろしければ、私にその強化をお任せいただけないでしょうか?
こちらは現在Lv28、鍛冶職としての実績も一定あり、
きっとお力になれるかと思います。
ご検討いただけましたら幸いです。
「……え、めっちゃちゃんとした人っぽい」
「丁寧な文面だね。ていうか、見てくれてたんだ……昨日の配信」
ゲーム内には、戦闘職以外のプレイヤー──生産職に属する人たちも多くいる。
鍛冶屋、錬金術師、調理師、裁縫師など、彼らの成長には“生産”という行為が不可欠で、
一定の条件を満たすことでようやくレベルが上がったり、クエストが進んだりする。
とはいえ、冒険職に比べるとどうしてもレベルを上げづらく、戦闘に関しては不得手な人が多い。
このミナトという人物も、おそらくその成長ルートの中で自身の成長要素として昨日のナイフに注目したのだろう。
「Lv28ってことは、わたしたちとほぼ同じくらい……?」
「うん、そこまで育ってる鍛冶屋さんなら、装備の相談できるツテとしては十分ありがたいよね」
「じゃあ、一度会ってみよっか!」
待ち合わせは、セーフタウン内のカフェスペース。
まどかといろはが先にテラス席について待っていると、目の前に声がかかる。
「……失礼します。まどかさん、いろはさん……ですよね?」
姿を見せたのは、黒髪ショートで落ち着いた雰囲気の女性。
すらりとした体型に、鍛冶職特有の作業服風コートを着こなしていた。
「私がミナトです。こちらは友人の──」
「はーい、どーも! サラでーす! 今日はよろしくっ」
もう一人は真逆のタイプ。
陽気でフットワーク軽そうな、派手めなローブ姿の女性だった。
ピンクがかった髪を軽く揺らしながら、にこにこと笑っている。
「鍛冶屋と錬金術師、コンビで素材と製作まわしてます!」
「今回は、ミナトがナイフの話を聞きつけて。私はただのついでです、ついで」
「いや、ちゃんと商談は成立させて帰ろうね……?」
まどかといろはは顔を見合わせて、同時に小さく笑った。
「改めて、まどかです」
「いろはですっ! 二人で“まどいろちゃんねる”やってます!」
「拝見してます。昨日の戦い、本当に……あれは職人の域でした」
「そうそう、スキルの回し方とか、視線の誘導とか! あれはプロの仕事よね!」
そんな感じで、軽い自己紹介と雑談が続く。
最初は探り探りだったが、互いのテンションと距離感がうまく合ったようで、
そのうちいろはが普通に「まどにゃんはねー」と話し出していた。
「それじゃあ、ナイフの強化、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです。素材と条件を確認させてもらえれば、すぐに取りかかれます」
「私はついでに、ポーションの補充とかもしちゃいます? いろはちゃん回復薬の飲み方豪快だったし!」
「ぎゃぅ、しっかりみられてる!?!?」
あらたな出会い。
そして、次なる準備。
ここから、まどかといろはの世界は少しずつ──でも確実に、広がっていく。




