第13話:宝箱の中には
ツインヘル・レギオンが絶命し、その場に大きく沈み込んだ。
炎と氷、それぞれのエネルギーがゆっくりと空へ昇り、
まるで空間そのものがため息を吐いたかのように、静寂が訪れる。
その中央に、ぽつんと宝箱が出現していた。
「……やったね」
まどかは、ふらふらとした足取りでその前まで歩く。
まだ《絶影》の反動で足取りが安定していない。
いろはがすかさず後ろから支えに回る。
「まどにゃん、よくがんばりました〜〜」
「今……そのテンションで肩に乗らないでぇ……」
宝箱の蓋は、二人が近づくとゆっくりと開いた。
中には、いくつかのアイテムと、ひときわ存在感のある光が収まっていた。
まず目に飛び込んできたのは、金属と魔石でできたアクセサリー。
「これは……“ディセント・チャクラム”って書いてあるよ~」
「装備位置が指って書いてあるね、チャクラムって普通は武器なんじゃ……」
「腕輪だってさー。効果が“スキルクールタイムが5%減少”……えっ、強くない?」
「強い。ふつうにトップ勢が羨ましがるレベルで強い……」
次に見つけたのは、ナイフ型の新武器。
細身の刃は黒く、中央に走る蒼い紋様が微かに脈打っている。
「“ブレイザークロー”……」
「それって今まどにゃんが使ってるナイフの進化系じゃない!?」
「……うん。攻撃力が一段階、いや二段階くらいは上がってる」
そして、宝箱の隅に押し込まれていたのは、魔法の布に包まれた【???】アイテム。
「これ……未鑑定品?」
【???】アイテムとは、鑑定前のレア等級以上の装備・素材・キーアイテムなどにランダムで付く名称。
現在のWLAでは、一部の強敵やダンジョンのボスからしかドロップしないとされており、その出現率はかなり低い。
「……でたね」
「うわ、本物の???アイテムだ……! 都市伝説じゃなかったんだ……!」
「とりあえず持って帰って、鑑定士に渡すしかない。確か、1日かかるんだよね」
「うんっ! 全身金ぴかのフルプレートとかだったらどうしよう……!」
「それは……絶対に着たくないね。秒で店売りするよ」
「えーっ!!」
そして最後に、二人のインベントリに、ひとつの通知が表示された。
「称号《炎と氷の討伐者》を獲得しました」
説明欄にはこう記されていた。
> 『炎と氷の双なる脅威を克服せし者に贈られる称号。所持時、炎と氷の属性耐性+3%』
「やったー! 称号って、見た目しか変わらないのかと思ってたけど、性能付きなんだね!」
「いや、性能付き称号はかなり限られてるよ。これ、かなりレアなやつだと思う」
「つまり、“勝者感”すごいってことだよね?」
「……まあ、今回はちょっとだけそうかも」
▶ 報酬豪華すぎない!?!?
▶ ???アイテムきちゃあああああああ
▶ 新ナイフもチャクラムも超実用レベルじゃん……
▶ 称号で3%はほぼ最高性能
▶ まどにゃん、あんな戦い方しておいて運も強いのか……
報酬を回収し終えたまどかは、ようやくその場にどさっと座り込んだ。
「はー……もう、ほんと……しばらく走りたくない……」
「えへへ。お疲れ様、まどにゃん。でも、最後すごいカッコよかったよ?」
「その“えへへ”の顔が、ちょっとイラッとくる……」
「ひどっ!? このいろはちゃんを労わらないなんて……」
「はいはい、いろはもよく頑張りました。っと」
「言わされてる感強くない!?」
そんな緩い会話をしつつ、奥にある転送陣まで、文字通り“這うように”移動していく。
転送陣に触れると、画面の上部に【ダンジョン攻略完了】の文字が表示された。
ゆっくりと浮き上がるようにして、二人の体が光に包まれていく。
まどかといろはは、地上に戻った。
ログアウト前のセーフエリアにて、配信ウィンドウのエンドカードが表示される。
「……というわけで、本日の“まどいろちゃんねる”はここまで!」
「みんな見てくれてありがとう〜〜〜!! 鑑定の続きは、また次の配信で!」
「それじゃあ、またね。おつかれさまでした!」
▶ おつまどいろ~~~!
▶ 最後までお疲れ様!!
▶ 神回でした
▶ 鑑定楽しみにしてます!!!
光がふわりと舞い、配信画面はゆっくりとフェードアウトした。
明日はお休みなので夜中にもう1話更新します('◇')ゞ




