第129話:信頼への応答
宣戦布告があった翌日、まどかといろはの元に一通のメールが届いた。
差出人はグラストムーンの国王、ルナ。
その内容は、ぜひとも今回の国家戦に参加してほしいという要請、そして――できればその間だけでも、国家運営陣に加わってもらえないかという、正式なお願いだった。
まどかたちもすでに国家戦のルールや概要には目を通しており、その意味の重さをすぐに理解した。
運営陣として戦うということ。
それは、単なる参戦者ではない。
特殊ユニットとして強化バフを得る代わりに、倒された際の損害も大きくなる。
言い換えれば、国の代表として戦場に立つということだ。
メールを読みながら、まどかはその期待に応えたいという嬉しさと、自分たちがその責任を負っていいのかという不安で、胸がざわついていた。
自分たちは、ようやくレベル50に到達したばかりだ。
もちろん、全プレイヤー規模で見れば上位に食い込むレベルではある。
だが、探せば当然それより上、レベル60~70台のプレイヤーはまだまだ沢山存在している。
(自分たちより強い人たちは、まだまだたくさんいるのに……本当に自分たちが運営枠を埋めていいのかな……)
そしてまどかの頭に浮かんだのは、相手国――トリガーレインの運営陣構成だった。
トップである国王のレベルは78。ルナやリーフと同じく、WLAの最上位ランカーだ。その下にも71、68、65、62……と続き、9人目でも53。レベル面だけ見れば、まどかたちよりも明確に上の戦力が揃っていた。
そんなことを考えてしまい、まどかはメールの返信も打てずにうじうじしていたが――
その背中に、明るくて力強い声が飛ぶ。
「またまどにゃんの悪い所出てるよー。ルナさん達がわたしたちを信じて声を掛けてくれたんだから、わたし達がすることはきまってるでしょ?」
「いろは……うん、でも……」
「でもじゃない! はい! なんでいつも大胆で自信家なのに、ルナさんが絡むとこうなっちゃうかなー?」
「う、はい。だってルナさんに格好悪い所見せられないと思うとさー」
「だってじゃない! まどにゃんは普通にしてればかっこいいんだから! ほら、はやく返事して!」
「叱りながら褒めるのやめて、情緒がおかしくなっちゃう。……うん、そうだね、自分を信じて、全力でルナさんのために戦おう!」
「そう、その調子! とは言えあと残り六人、誰かあてはあるのかな?」
「トップランカーだからね、さすがに人脈は広そうだけど……他のトップ陣の勧誘は難しいかもね」
「え? なんで?」
いろはが不思議そうに首をかしげる。
「相手の国王も同格のトップ陣だからね。どちらかに肩入れすればどちらかに敵対することになる。どちらかと特別仲が良いとかがない限り、中立を選ぶんじゃないかな。」
「……あーたしかに、ルナさんもリーフさんも元々あんまりコラボとかもしなかったし、そのレベルで仲の良いトップ陣はいなさそうだよね……」
静かに頷いたまどかの頭の中にも、協力を取り付けられそうな人物の名前はすぐには浮かばなかった。
だが、そこでふと、いろはが思い出したように声を上げる。
「あ、そうだ、あの人は? カゲミツさん! 確かあの人もLV70とかだよね?」
「いやだめでしょ、カゲミツさんはブラックギャングの国王だよ? 下っ端なら一時的に所属変更とかで参加はできるかもしれないけど……それすら割とグレーじゃないかな?」
「……あー、そうだった……残念」
「あ、でも。カゲミツさんも顔は広いみたいだし、そこ経由で何人かは声かけてもらってるかもしれないね」
「っていうかそもそも、今私たちがそんな所まで心配してもしょうがないよね。そこはルナさんたちの仕事として、私たちは自分達の出来ることをしなきゃ」
「そうだね。もちろん頼られればなんだってするつもりだけど……」
二人は顔を見合わせて、クスリと笑った。
「じゃあまずはルナさんにOKの返事をして、少しでもレベルをあげにいこうか!」
「了解! ちょっと無茶してでもレベルの高いところで追い込もう!」
強い意志と覚悟、そしてなにより信頼を返したいという思いが、二人の胸に宿る。
国家戦まではあとわずか数日、ルナ達の為にも少しの時間も無駄にはできない。




