表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/131

第123話:いろはの妙技


 いろはがPVP闘技場への参加受付を終え、専用フィールドへと転送される。

 

 眼前に広がるのは、円形に仕切られた戦闘用アリーナ。

 

 透明な結界がその外周を包み、観戦者の視線を鋭く通していた。


 数秒の待機の後、アナウンスが響く。


 「対戦相手確定、マッチング完了——」


 光の粒が集まり、目の前に一人のプレイヤーが姿を現す。

 

 装備は片手剣と小型の丸盾。

 

 軽装の前衛タイプだ。表示されたステータスはLV52/PVP戦績3勝2敗/ポイント15P。


 いろはの現在のポイントは、まだ初期値の0P。


 このシステムでは、基本は同格相手に勝てば5Pを獲得し、負ければ0P。


 ただし、相手とのポイント差が50P以上ある場合は変動が大きくなり、勝てば20P、負ければ-10Pという逆転チャンスも用意されている。


 目の前の相手は、特別に強くもないが油断できるわけでもない。


 シンプルに3勝を重ねた実力者であり、2敗という数字からは安定性にやや欠ける印象もある。


 レベル通り……いや、ちょっとだけ強いかも?


 軽く相手を観察しながら、いろはは最適な戦い方を思案する。


 だが、今回はじっくり削るセオリー通りの戦術を取る余裕はない。

 

 何しろ、まどかとの勝負の真っ最中なのだ。


 時間をかけすぎれば、たとえ勝ち続けてもポイント数で負ける可能性がある。


 「……なら、行くしかないよね」


 そのつぶやきと共に、開始のカウントダウンが始まる。


 5——

 4——

 3——

 2——

 1——

 START


 バリアが解けると同時に、戦士の男がセオリー通りの動きでじわじわと間合いを詰めてくる。

 

 盾を構えながら、確実に、着実に。まるで教科書通りの戦法。


 しかし次の瞬間、いろはがとったのは“予想外”の動きだった。


 「えいっ!」


 自身にバフをかけると、一直線に相手へと突っ込み、まさかの杖で殴打。


 この行動に、戦士の男は咄嗟に盾を持ち上げて受けにまわる。


 当然、ダメージは通らない。けれどそれは、いろはの狙い通りだった。


 ダメージを与えるのが目的じゃない。今のはタイミングをずらすための“ノイズ”


 直後、いろははステップで素早く後退する。が、相手は当然それを逃すはずもない。


 すぐさま距離を詰め、剣を振り上げてスキルを放つ——が、その剣は、薄く張られた透明なバリアに阻まれる。


 同時に、いろはの両側から放たれ魔道珠オーブがゆるやかに弧を描いて宙を舞い、相手の背後へと回り込んでいく。


 とっさに戦士が視線を後ろに向けた、その瞬間を——


 「——陽焔斬!」


 正面からの魔法剣撃が炸裂。さらに魔道珠が背後から直撃。

 

 これにより、いろはは“自分一人での挟み撃ち”という奇襲を成立させた。


 普段のパーティ戦では使い所の少ないこのテクニックも、1対1の闘技場ではまさに極めて有効な戦術。


 翻弄された戦士は、この状態に適応すこともできず、正面から、背後から、いろはの猛攻を一身に受け続ける。


 「……あ、やばい」


 そう思った時には、戦士のHPバーはすでにゼロを指していた。


 彼の姿が光となってアリーナから消え去ると同時に、勝利のエフェクトが華やかに舞い上がった。


 ……ふぅ、まずは1勝


 いろはが一息ついた時、ふと視界の端に表示されている“PTメンバー観戦中”の表示が目に入る。

 

 視線を観戦席へと移すと、ぎっしりと観客が詰めかけていることに驚かされた。


 思ったより……注目されてるんだ


 そして、そこには顔をしかめるまどかの姿も。

 

 やや呆れたような、困ったような、そんな複雑な表情だった。


 「えへへっ♪」


 いろはは苦笑するまどかに向けて、元気にVサインを送る。

 その姿がフェードアウトして、ロビーへと戻っていった。


 観戦席に残されたまどかは、静かに額へ手を当ててつぶやく。


 「……思ったより、まずいかも」


 冷や汗をぬぐいながら、まどかの表情にもほんの少しだけ焦りの色がにじんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ