第121話:第6章プロローグ
「よっし、これで……LV50達成だー!やったー!!」
いろはの声に呼応するかのように、2人の身体が淡い光に包まれ、レベルアップのエフェクトが華やかに弾ける。
石畳に反響するその音は、静かなダンジョンの空気を一変させた。
ドグマとの決闘から、約十日が経った。
まどいろの配信は再び安定し、話題性と視聴者数の伸びも落ち着きを見せつつあった。
そして、その間に2人は着実に経験値を積み上げてきた――すべてはこの瞬間のために。
「おめでとう、いろは」
「ありがとう! まどにゃんもおめでとう~! レベルアップのタイミング調整バッチリだったね」
「どうせやるなら、同時の方がインパクトあるからね。配信的にも」
「そーいうとこ、ほんと抜け目ないよね。まどにゃん」
軽く肘を突きながら笑ういろはに、まどかは肩をすくめて返す。
けれど、その表情には達成感と誇らしさが確かに宿っていた。
WLAにおいて、LV50はひとつの到達点だ。
公式にも“節目のレベル”として明記されており、これを超えた者には特別なコンテンツが解放される。
――それが、「PVP闘技場」。
セラフィタウンの仮設的なオブジェクト闘技場とは比べものにならない、巨大な専用施設を舞台に、世界中の猛者たちが日々しのぎを削る競技システム。
参加条件はLV50以上。
表向きは「一定の実力者同士でのマッチングのため」とされているが、実際にはサーバー負荷の問題だというのがもっぱらの噂だった。
「まあ、どっちでもいいよね。重要なのは、私たちがその舞台に立てるようになったってこと!」
「うん、ついに殴り込みって感じだね……!」
PVP闘技場は、基本的にレベル帯と勝利数をもとに、実力の近いプレイヤー同士でマッチングが行われる。
勝てばポイントが増え、負ければ減る事もある。
そのポイントによってランキングが上下する――シンプルながらも、熱くなれる仕様だ。
「最初はPVPにそこまで興味なかったけど……なんだかんだで、やってみたくなるよね」
「配信的にも人気あるもんね。やらない手はないよ~。」
最近の登録者数の急増は、明らかにドグマ戦の影響によるものだ。
あの一戦がまどかの実力を証明し、同時に“まどいろ”というコンビの存在感を広く知らしめることになった。
「そういえば、世界でLV50に到達してるのって、全体の3パーセントくらいなんだよね?」
「うん。でも今、全世界で600万ユーザー以上いるらしいから、それでも数二十万人近くはいる計算になるよ」
「冷静に考えると、とんでもない数だよね……」
国内同士のマッチングが中心ではあるが、上位ランカー同士の対戦となれば、絶対数が減り海外プレイヤーとのバトルも多くなるらしい。
「ちなみに、ルナさんはここ数か月はずっとランキング100位以内キープしてるんだよね」
「それって逆に考えると……ルナさんクラスのプレイヤーが世界に100人近くはいるってことだよね……」
「うん、まさに“上には上がいる”って感じ」
まどかは一瞬だけ、遠くを見つめた。
あの人の背中に少しでも近づけるのだとしたら――この道を進む意味も、きっとある。
「よーし!じゃあ、次回の配信は決まりだね!」
「うん、PVP闘技場に……殴り込み、かけてやろう!」
2人は拳を合わせ、目を見て笑い合う。
拳が軽くぶつかる音が、次なる物語の始まりを告げていた。




