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第118話:静かな余韻


 「まどにゃーん! かっこよかったよー!!」


 配信が終了した直後、少し離れた場所から様子を見ていたいろはが、勢いよく駆け寄ってきた。

 

 両手を大きく振って走るその姿は、まるで子犬のように無邪気で、緊張していたまどかの表情を和らげてくれる。


 「ま、概ね予定通りって感じだね」


 まどかはわざと淡々と返す。

 

 感情を抑えたその声音には、達成感と安堵、そしてほんの少しの照れが混ざっていた。


 「もう、またクールぶっちゃって、でもそれでこそ、まどにゃんって感じだよね」


 「まったく、また適当な事言って……」


 呆れたようにため息をつきながらも、まどかの心はどこか軽やかだった。


 いろはのテンションに引きずられるように、いつもの日常が少しずつ戻ってくる。


 絶対に勝つつもりだったし、そのための準備もしてきた。


 それでも、どこか心の奥底には、ほんのわずかな“敗北の可能性”が影を落としていた。


 だからこそ──いま、こうして勝利という結果を手にしたことが、言葉にできないほど嬉しい。


 「でも意外だったね、おもったより素直に謝罪してたし」


 「私に負けたのと、カゲミツさんに怒鳴られた事で、自信……プライドみたいなのがポキッと折れちゃったんだろうね。 まあこれ以上恥を晒さなくてよかったんじゃないかな」


 「うーん、辛辣だね。ま、もうどうでもいっか」


 その言葉に、まどかは小さく笑った。


 ドグマが今後どうなるかなんて、もう興味はなかった。

 

 やるべきことはやった。それ以上でも、それ以下でもない。


 「それより、ルナさんとカゲミツさんにも改めてお礼を言わなくちゃ」


 まどかがそう言って振り返ると、ちょうどルナとカゲミツが少し離れた場所で並んで何かを話していた。


 柔らかい雰囲気で言葉を交わす2人の姿は、どこかほっとさせるものがあった。


 ──そして、そこにドグマの姿はなかった。


 まどかはいろはと目を合わせ、小さく頷くと、そのまま2人でルナたちのもとへ駆け寄っていった。


 「お、遅くなりましたが、改めて、今回の立会人ありがとうございました! おかげさまで無事決着をつける事ができました!」


 勝負を終え、ようやく緊張から解き放たれた今、まどかはルナの前に立つことで再び緊張してしまい、思わず声が上ずってしまう。


 その頬がじんわりと赤くなるのが自分でもわかる。


 そんなまどかに対して、ルナはいつものように優しく笑みを浮かべ、穏やかな声で答えた。


 「いいんだよ、私たちが好きでやったことだし、カゲミツ君も何か2人の役に立ちたいって言ってたしね」


 「そうそう、ドグマをこのゲームに誘ったのは僕だし、2人には申し訳なくってさ」


 カゲミツは、先ほどの激昂が嘘のように穏やかな声に戻っていた。


 頭をポリポリと掻きながら、気まずそうに視線を逸らすその仕草には、誠実さが滲んでいる。


 まどかにしてみれば、ドグマの言動はあくまで彼自身の問題であり、カゲミツが責任を感じる必要はないと感じていた。


 ──けれど、こういうところが、カゲミツが多くの視聴者に愛される理由なのだろう。


 「ドグマも、今回のことで相当懲りたみたいだし、しばらく1人で考え直すってさ」


 「そうなんだ、全然興味ないけど」


 心の声を隠そうともしないまどかに、カゲミツは苦笑いを返す。


 「それで、これ、迷惑料には足りないだろうけど役にててて欲しいってドグマから」


 そう言って、カゲミツは鞄から──2丁の拳銃を取り出した。


 それはまさしく、先ほどまでドグマ自身が使用していた、彼の代名詞とも言えるメインウェポンだった。


 「え?これってドグマの武器なんじゃ」


 「うん、自分を見つめ直す時間がほしいらしくてさ、まどかちゃんならコレを使いこなせるだろうって」


 その銃は、ただの装備ではなかった。


 スキルによる補助はないものの、トリックスターにとって扱いやすいカテゴリに属する銃火器。


 しかもこれは──市場には出回らないような、いくつもの追加効果がついた超レア装備。


 銃そのものにスキルが組み込まれており、汎用性と火力を兼ね備えた逸品だった。


 ドグマが使っていた、という背景さえ目をつぶれば、


 まどかにとっても“足りなかった遠距離火力”という課題を解決しうる、まさに申し分ない装備。


 「……わかりました、ありがたく受け取っておきます」


 手を伸ばし、静かにその銃を受け取った。


 これは“勝者”の証として、まどかの新たな武器となる。


 その様子を見届けて、ルナとカゲミツは満足そうに頷くと、その場からゆっくりと立ち去っていった。


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