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第109話:第5章プロローグ


 俺の配信者人生は、順調そのもの……だったはずだ。


 学生時代、クラスでも目立つ存在だった俺は、友達と一緒に軽いノリでゲーム実況を始めた。

 

 最初こそ視聴者は数人、再生数も数十回といった地味な日々が続いたが、俺たちは見た目にもトークにもある程度自信があったし、何より配信が楽しかった。

 

 そうして地道に積み重ねていくうちに、少しずつ名前が知られるようになっていった。

 


 転機が訪れたのは、あるオンライン対戦ゲームの配信中だった。

 

 たまたま大手配信者とマッチングし、さらにその試合で俺たちのチームが優勝をもぎとった。

 

 視聴者数は跳ね上がり、フォロワーは一気に数倍に増えた。

 

 思えば、あのときの勝利が俺の運命を変えたんだろう。



 その後は怒涛の快進撃。トーク力と立ち回りのうまさで“中堅上位”と呼ばれるポジションまで上り詰めた。

 

 だが、全てがうまくいっていたかというと……違った。


 相方が突然「もう一緒にやっていけない」なんて言い出しやがった。

 

 こっちは寝る間も惜しんで配信にかけてきたってのに、何が気に食わなかったのか、理由は今でもわからない。

 

 激しい口論の末、コンビは解散。視聴者の一部は去っていったが、それでも俺は諦めなかった。

 

 1人でも配信者としてやっていける自信があったし、実際、数字は多少落ちたとはいえ一定のファンはついてきてくれていた。


 だが、何かが足りない。配信も、コメントも、数字も──満たされない。


 こんなところで終わる俺じゃない。もっと高みへ行けるはずだ。いや、行かなくちゃいけない。



 そんな折、かつて共演したあの大手配信者から連絡がきた。


 「新作のVRMMO、World Link Archiveで、俺たちと一緒に国を作らないか?」


 その誘いに俺は一切迷わなかった。チャンスだと確信していたし、これが俺の第二のブレイクの引き金になる、そう信じていた。


 ゲームを始めてみると、確かに手応えはあった。

 

 このゲーム、配信者との相性がすこぶるいい。国家運営も軌道に乗り、ファンは再び増え始めた。


 だが──予想外だったのは、招かれたメンバーの多さだ。

 

 てっきり精鋭数名で構成されると思っていたチームは、ふたを開ければ有象無象、聞いたこともないような弱小配信者までごった煮状態で、メンバーは20人以上。


 しかもその中で、俺には特に何の役職も与えられていなかった。



 ふざけるな、どうして名前も知らない有象無象と同じ扱いなんだ。

 

 そう内心で毒づきながらも、俺は腐らなかった。見返してやろうと必死にプレイした。

 

 そうして辿り着いたのが、唯一無二の派生職── 《ギャングスター》 。

 

 まだ誰も手にしていないその転職アイテムを運よく入手し、すぐさま転職を果たした。



 国家名が「ブラックギャング」だったこともあり、ギャングスターという肩書きは極めてインパクトが強かった。

 

 SNSでは話題になり、俺のフォロワーも再び大幅に増加。

 

 中には、ブラックギャングのリーダーが俺だと勘違いしてる奴もいたかもしれない──だが、それでいい。

 

 実際、俺こそがこの国を牽引する存在なのだから。



 だが、またしても壁が立ちはだかる。

 

 快進撃は次第に鈍り、視聴者数も減少傾向へ。努力はしている。見どころも作っている。

 

 それなのに、何かが足りない──またしても、俺は満たされていなかった。


 そんな時だった。



 ふとしたきっかけで目に入った、2人組の女配信者。

 

 派手な演出、華やかなスキル、絶妙な掛け合い。そして──片方の職業名はトリックスター。


 「シーフ系派生職、被ってんじゃねーか……!」


 そう吐き捨てながら、俺はそのアーカイブを見返した。

 

 見れば見るほど腹が立った。

 

 こいつら、俺の真似してんのか? いや、違う。たまたま派生職を引いただけの、ポッと出の新参者だ。


 ──なのに、なぜ俺よりも注目されてる?



 冗談じゃない。俺の居場所を、俺のポジションを奪うつもりか?


 だったら証明してやる。どっちが格上か、この俺が──徹底的に分からせてやるよ。


 「いいぜ……面白くなってきたな」

 

  月明かりの差し込むギルドの一室。ギャングスターの男、 《ドグマ》 は椅子にもたれながら、再びアーカイブを再生し、ニヤリと口元を歪める。


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