第10話:強さは動きで押し返せ
「ふぅ……ここまで来れるかも、正直五分五分くらいのつもりだったんだけど」
迷いの森を抜け、転送陣の光から次のエリアに現れた直後、まどかが静かに漏らす。
ダンジョンの空気は一変していた。森の湿った空気が消え、重く乾いた石の匂いに満ちている。
最後の戦場、最終エリアだ。
「それって……うちら意外とすごいってことじゃない?」
「自分で言う?」
「いやいや、これ言わなきゃ誰が言うの!?」
「コメントで言ってくれてるよ、皆見てるんだから」
「あ、そっか……みんなありがとー!」
いろはを見て苦笑しつつも、心のどこかでまどかも思っていた。
自分たちはちゃんと、強くなってきている。
でも、ここからが本番だ。
「最終エリアはギミックなし。その代わり、敵の数と強さで押してくる構成」
「こっち、レベル的にはまだ下なんだもんね……」
「うん。正直、ここが一番きつい。気を抜かないで」
構造は比較的シンプルだった。石造りの細い通路と、中規模の広場がいくつか続く構成。
分岐こそあったが、事前に調べていた最短ルートを辿れば、余計な戦闘を避けることができる。
ただし──敵の配置密度が尋常じゃない。
「っ、4体……前方広場に複数の反応」
「全部同時……は流石に無理だよね?」
「うん。いろは、ちょっと距離取ってて」
まどかは腰元から小型の魔導具を取り出し、軽く詠唱する。
魔力を帯びた光球が前方へ飛び、敵の注意を引いた。1体が釣られ、こちらへ突撃してくる。
「よし、来た──!」
スピード重視で仕留める。被弾を最小限に抑え、HPとリソースを温存。
この“釣って各個撃破”の繰り返しが、今の彼女たちにとって最適な選択だった。
「次、2体いけそう。いろは、支援お願い」
「はいはいっ! 《虹色の炸裂符》!」
魔力の陣が華やかに炸裂し、敵の動きを鈍らせる。
そこへまどかが飛び込み、ナイフを連撃に変える。
戦いは一進一退──けれど、確実に進んでいた。
しかし、突き進むほどに、ミスの許されない場面も増えていく。
「くっ──!」
反応が一瞬遅れた。敵の爪がまどかの肩を掠める。
その瞬間、いろはが前へ飛び出した。
「まどにゃん危ないっ!! 陽焔斬!」
炎を帯びた光刃が敵の側面を切り裂き、強制的にタゲを引き剥がす。
まどかは身を引き、すぐに回復剤を口にする。
「助かった……っ、ナイスすぎる……!」
「へへっ、ちゃんと見てたからね!」
そんな余裕も束の間──
「──って、わっ!? あ、角からもう1匹!?」
タイミングの悪い接敵でいろはがバランスを崩す。
次の瞬間、敵が3体、いろはを取り囲もうと迫ってくる。
「下がって!! 二連歩──!」
まどかが飛ぶ。残像と共に一気に前方へ飛び込み、敵の間を斬り裂く。
反転してから《煙玉》《バックステップ》──敵の標的選定を撹乱し、数秒の猶予を作る。
「っ、今のうちに!」
いろはが立ち直り距離を取り、追撃の魔法を叩き込む。連携が噛み合い危機を脱する。
▶ いろはあぶなーーい
▶ 今の乗り切るの強すぎん?
▶ まどにゃんのスキル回しマジで綺麗
▶ これレベル足りてないのにやってるのヤバいって
「ふぅ……まさか、こんなにキツいとは」
「でも……あとちょっと、だよね……?」
視線の先、広間の奥に、重厚な石扉がそびえていた。
魔力を帯びた封印文様がゆらゆらと光を放っている。
「……ボス部屋」
「うわ、見た目だけで緊張してきた……!」
まどかはナイフの刃を軽く拭いながら、深く息を吸い込んだ。
「でも、ここまで来たんだ。あとひと踏ん張り──行こう」
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虹色の炸裂符
敵に様々なデバフと少しのダメージを与える。
どのデバフをどの程度与えるかはランダムだが、
そこまで大きな効果は見込めない。
スキル使用時派手に7色に光る。
煙玉
シーフのスキル。
アイテム煙玉を使って狭い範囲の目くらましを行う。
範囲内のモンスター・プレイヤーは数秒間ターゲットを見失う。
バックステップ
素早く後ろ方向へ飛び退くスキル。
スキルを使うことで多少の慣性なら無視して動ける。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
探り探りですが、なんとか10話目までたどり着けました。
ストックはあと60話以上あるので、内容を調整しつつ、今後も1日1〜2回のペースで更新していきます。
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