第108話:第4章エピローグ
思えば、すべての始まりは、リーフちゃんとのコラボ配信だった。
最初はちょっとした思いつきだったはずが、いざダンジョンを一緒に攻略してみると、想像以上に息が合って、配信中のテンションはどんどん上がっていった。
結果として、ソロでは到底無理だろうと思っていたボスすら軽々と討伐できてしまったほどだ。
そして、その勢いのまま、なぜか二人で国家を建国する流れになってしまった。
新たに誕生した国家の名前は「グラストムーン」。
草=グラス(リーフ)と、月=ムーン(ルナ)を合わせたもので、我ながら少々気恥ずかしいネーミングではあるが……
配信の盛り上がりの中で決まったものだし、いまさら由来を語るつもりはない。
察しの良い人には、まぁ、バレているかもしれないけれど。
建国後は、視聴者の意見も取り入れながら少しずつ整備を進め、なんとか国の体裁は整ってきた。
けれど、すぐに新たな問題に直面することになる。
私たちが拠点に選んだ「月鏡台地」は、その景観の美しさに惹かれて決めた場所だったけれど、想定以上に高レベル帯のエリアだったせいで、多くのプレイヤーがたどり着けなかったのだ。
どうしたものかと頭を抱えていた矢先に、なんと、あのまどいろの2人から1通のDMが届いた。
内容は、グラストムーンへの護衛ツアーを実施したいというもの。
これが本当にありがたく、すぐに許可を出させてもらった。
配信を通じて国の魅力を伝え、参加者を安全に案内してくれたおかげで、ツアーは大成功。
一気に国民が増えただけでなく、定期的な往来まで生まれる結果となった。
私たち以上に国の発展を考えてくれているんじゃないかと思うほどで、正直、王様を交代してもらいたい気持ちになるほどだったけれど……いや、さすがにそれは責任放棄が過ぎる。
せめて、彼女たちの尽力に応えられるよう、私たちも精一杯やっていこうと改めて心に決めた。
そんな最中、グラストムーンが管理するダンジョン「月の竜宮城」に関する不穏な報告が寄せられる。
どうやら、ボスモンスターのレベルが固定ではなく、挑戦ごとに変動している可能性があるとのことだった。
以前、私とリーフちゃんが試しに攻略した際は、ボスのレベルは46。
変異した巨大ウサギとの戦闘で、難易度的にもそれなりにバランスが取れていた印象だった。
けど、その後に報告されたボスのレベルは47、48、はたまた45など、バラつきがあるようだった。
そしてある日、通知で「まどいろ」の2人が月の竜宮城の攻略に向かったことを知る。
彼女たちのレベルを考えればやや高難度ではあるが、きっとクリアできるはず――そう思いながら、私はリーフちゃんと一緒にリアルタイムで彼女たちの配信を見守った。
結果は、見事なクリア。しかもボスレベルは48で、私たちが挑んだときよりも高かった。
彼女たちの成長ぶりに驚かされたのと同時に、ボスレベル変動の要因に関する仮説にも手応えを感じた。
ただ、それ以上に驚かされたのは、討伐ルートそのものだった。
まどいろの2人は、今まで誰も通ったことのない選択肢――乙姫の討伐というルートを見つけ、実行したのだ。
私たちを含め、これまでのクリア者のほとんどが、凶暴化したウサギをそのまま倒してしまっていた。
それに対し、彼女たちはウサギの凶暴化が収まった瞬間を見逃さず、乙姫こそが真の黒幕であると見抜いた。
まどいろのように、ギリギリの難易度を進むプレイヤーでなければ、あのイベント分岐を見ることすらできなかったはずだ。
彼女たちの配信をきっかけに、私たちはダンジョンの隠された仕様に気づくことができた。
その後、クリア後にダンジョン内部の挙動が変わったことや、「餅月うさぎの友人」という特殊な称号が存在することも新たに判明し、すぐに調査依頼を出すこととなった。
あの2人がいなければ、この国の魅力の半分すら、まだ見えていなかったかもしれない。
彼女たちはまさに、グラストムーンにとって幸運の星であり、道しるべのような存在だと心から思っている。




