第103話:ボスの最後
巨大ウサギの動きが止まったその一瞬――。
「行くよ、いろは!」
まどかが声をあげ、二連歩の加速を纏って真っ先に跳び出す。
刹那、空気が切り裂かれるような音と共に鋭い一撃がウサギの胴をなぞる。
ぶわっと魚介の鱗やヒレが宙に舞い、再びその体から魚たちがボロボロとこぼれ落ちていった。
「はいっ、追撃ーっ!」
続けざまに、いろはの虹色に光る札が空を滑りながらウサギの背に炸裂。
音もなく破裂した札は、周囲にカラフルな光の花を咲かせ、ウサギの体表を淡く包む。
《防御力ダウン(中)》 の表示が浮かび上がる。
▶︎ 「ナイスデバフぅ!」
▶︎ 「引き強いなーいろはちゃん!」
▶︎ 「デバフ職人ここにあり!」
まどかはその瞬間を見逃さない。
「とどめの連撃、行くよ!」
まずは足元に【スカーレットライン】を一閃。紅い線が床を這うように走り、ウサギの足元を貫く。
跳ね上がると同時に、頭上に【イリュージョンリリィ】を展開。花びらのように散った幻影が空を舞い、ウサギの目を眩ませる。
そして空中から、口元へと向かってぴょんと飛び込み――
「はい、風船爆弾入りますー!」
器用に投げ込まれた【風船爆弾】が、ウサギの口の中に収まると、まどかはそのまま口元から頭部、背中へとナイフを突き立てながら一気に滑り落ちる。
キィィィィィン!!
甲高い絶叫とともに、体中から魚がどさりどさりと落下。剥がれた魚たちがまるで雨のように舞い、海底のような足元にぽちゃんぽちゃんと着地する。
「うわー、まどにゃんすご……!」
いろはが呆気にとられた声で呟く。
ウサギの体はすでに2メートルにも満たない。もはや初期のサイズに近づきつつあった。
しかし、ボスもこのままやられてくれるほど甘くはなかった。
ウサギが突然ぐっと踏み込むと、さっきまでの巨体とは思えないほどのスピードでハンマーを振りかぶって突進してくる。
「うわっ、速いっ!」
まどかはギリギリのタイミングで横に跳ねて回避。間一髪、風を切る轟音が耳元をかすめる。
さらにウサギは振り返りざま、連撃でハンマーを振り下ろしてくる。
一撃、また一撃。避けるのがやっとの攻撃――。
「でも、ここまで来たらもう大丈夫。スピード勝負では負けないよ」
まどかの口元に、決意と笑みが混じる。
【絶影】発動。
その瞬間、まどかの動きがガラリと変わる。
ハンマーが再びうなりを上げるが、まどかの姿はすでにそこにはない。
ウサギの背後、横、上空――
分身かと見まがうような速さで移動しながら、ひとつも攻撃を食らうことなくまどかは踊るように避け続ける。
▶︎ 「見えない!?何が起きてんの!?」
▶︎ 「これが…絶影の真骨頂…!」
▶︎ 「もう完全に使いこなしてるなぁ」
視聴者コメントが一斉に沸き立つ。
背後を取られたことに気付いたウサギがいろはを狙おうとするが――
そこには、すでにまどかがいた。
【蓮撃】発動。
連続で叩き込まれる斬撃の雨に、ウサギの体から再び魚がこぼれ落ちる。
サイズはどんどん小さくなっていき、とうとう“餅つきうさぎ”の姿に戻ってしまった。
▶︎ 「小さくなったぁ!」
▶︎ 「まどにゃんタイマン最強説」
▶︎ 「ラスト一押しか…!?」
ウサギが小さくなった。もう戦う力は残っていないはずだ。
「さて……とどめ、さそうか」
まどかは、一歩、二歩と餅つきウサギへと近づいていく。




