第102話:ウサギを壁に追い詰めろ
多少サイズが縮んだところで、やることは変わらない。
まどかは再び距離を詰め、ウサギの懐へ飛び込もうとした──が。
「えっ、なにそれ!?」
ウサギは先ほどのように構えてハンマーを振るのではなく、柄を軸にぐるぐると力任せに振り回し始めた。
「うわっ、とっとっと!? あっぶなっ!」
まどかは間一髪で直撃を避けたが、すさまじい風圧にあおられ、バランスを崩す。
体が宙に浮き、背中から後方へと転がるように転倒──そのまま回転して一回転。
▶「うそ、今の避けたの!?」
▶「バレリーナかよ」
▶「これ回避ミスったら一撃死コースだろ」
──だが、まどかはすぐに両足で床を蹴る。
「……よし、バックステップ!」
回転の勢いを殺さずそのまま後ろへ跳び、再び追撃のハンマーを間一髪で回避する。
「さすがまどにゃん……ってかあぶなすぎ!」
「いやいや、近づけないってこれ……」
距離を取りつつ、まどかは深呼吸する。
突っ込むには無謀すぎるし、かといって離れても──
「うーん……これ、疲れるの待ち?」
「そう思いたいんだけどさ……」
いろはがやや困った顔で言う。
「なんか、いつまでも振り回してそうな“気配”あるよね……」
「わかる。スタミナ減ってる感じがしないんだよね……目がまだ元気だもん」
コメントもざわつき始める。
▶「そろそろ休んで?」
▶「モーション長すぎぃ!」
▶「ずっと振ってるの地味にホラーなんだが」
試しに、まどかは遠距離スキルのイリュージョン・リリィを発動して斬撃を送ってみる。
いろはも追撃に陽炎斬を重ねるが──
カンッ、カンッ!
すべてハンマーの回転で弾かれてしまう。
▶「遠距離攻撃当たんないの!?」
▶「チートすぎるw」
「……だめだね。どの角度でも、ちゃんとガードされちゃってる」
じりじりと後退するまどか。その視線が背後の壁に向かう。
(壁──壁……か)
「……あれ、やってみるか」
ふっと口角を上げたまどかの表情に、いろはが敏感に反応する。
「うわ〜〜、まどにゃん、今すっごい悪い顔してたよ? 配信、映しても大丈夫かな〜?」
「うるさい。黙って支援よろしく」
「はいはーい、まどにゃんが悪い顔のときは、だいたい成功するやつだから信じてますよ〜」
まどかは位置を調整し、距離をとるとスキルを発動。
「イリュージョン・ステップ──!」
一体だけの分身が静かに出現する。
▶「お、分身だ!」
▶「本体HPちょい減るやつか」
▶「この場面で分身?」
実際、まどかの最大HPが20%ほど削れているが、それでもこの賭けには価値がある。
分身はすぐさま動き出し、自然とウサギの目線とターゲットを引き受けるように動線を誘導する。
いろはは軽やかに位置を取り、遠距離支援と回復サポートを維持。
まどかの狙い通り、分身はゆっくりと“壁”の方向へと追い込まれていった。
──壁に背を預けるように立つ分身。
まどかはタイミングを見計らって、軽く口を開いた。
「……跳べ」
ふわりと、分身がジャンプする。
次の瞬間──
ドガァァァン!!!
強烈な衝撃音が響き渡り、ウサギのハンマーが分身を消し飛ばすと同時に、
背後の壁へと叩きつけるように炸裂した。
空間がビリビリと揺れ、天井の海藻が一斉に震えた。
▶「きたああああああああああ!!」
▶「今の演出すごっ!!」
▶「壁割れてない?w」
ウサギの動きがピタリと止まる。
──効いた。
「いっけええええ!!」
まどかといろはが同時に駆け出す。
「今のうち! スキル全開で押すよ!」
「まっかせて!」
視聴者コメントは最高潮に沸き立ち、
ふたりは一気に攻勢に転じる。
気づけば100話超えてました。
ここまで読んでくださった方々、ほんとうにありがとうございます。
そろそろストックに追いついてきたので、更新速度が落ちるかもしれません。
定期的には上げていこうと思いますので、ブクマ等して長い目で見守ってもらえると嬉しいです。
もう数日は毎日更新続けていけるかと思います。




