プロローグ:その背中を追いかけて
「よっと、これでクエスト完了かな」
羊型のモンスターがぴょん、と跳ねて崩れ落ちるのを見届けて、
まどかはナイフを鞘に収めながらひと息ついた。
目の前に広がる草原は緑の海のようで、そよ風が草の波を揺らしている。
遠くには小川がきらきらと輝き、雲一つない青空の下、花の香りと草の匂いが混じる。
風の温度までリアルで、まるで現実と錯覚するほどだ。
ここは『World Link Archive 』──通称WLAと呼ばれる没入型VRMMOの世界。
リリースされてから約三か月、すでに総登録者数は五百万人を超え、
同時接続者数も常時百万に達するという、今もっとも熱いオンラインゲームだ。
コンセプトは「新しい世界で、つながる冒険と配信を」。
このゲームの一番の特徴はゲーム内に独自の配信プラットフォームがある事。
プレイヤーが自由に配信を行い、視聴者とコミュニケーションを取りながら冒険を楽しめる、
まさに“世界そのものが舞台”となる構造。
探索、バトル、生産、商売、農業、建築、経営
そして配信──そのすべてが、この世界では好きに楽しめる。
「……いや、本当にすごいな、改めて」
まどかはログウィンドウをひと目確認して、羊モンスター討伐のクエスト完了報告を送信。
報酬の経験値と少額のコインを受け取る。
まだまだ駆け出しと呼ばれる立場だけれど、それでもこの世界での生活は確実に積み重なっていた。
──とはいえ。
冒険者として順調に進んでるけど、元々は本当の目的は別にあった。
まどかがこの世界に飛び込んだのは、配信に興味があったからではない。
彼女の参戦動機は、ただひとつ。推しの存在──《ルナ》。
高貴でクールな雰囲気をまとった美人剣士。
大剣二本を軽やかに操り、冷静沈着な判断力と華麗な立ち回りで、
多くの視聴者を魅了してやまない上位配信者。
このゲームが始まる前から私はルナさんの配信の大ファンだった。
──ルナさんがこのゲームを始めたと知って。
まどかは一も二もなくWLAを導入し、すぐにログインした。
そして、彼女と“同じ世界”で、“同じ時間”を過ごすために、冒険者としての道を歩き始めた。
「最初は完全に推し活目的だったのに……まさか、こんなに楽しくなるなんてね」
草をかき分けながら小道に戻る。
画面の端にはログイン情報と時刻、クエスト履歴。
今では見慣れたUIが、ごく自然にまどかの視界に溶け込んでいる。
現在のレベルは22。職業は《シーフ》。
ナイフを使った接近戦を主とし、回避と連撃を得意とするクラスだ。
元々、何かを極めるタイプではない。
けれど、何をやっても人並み以上にこなせる器用さはあると自負している。
同時期に始めた一般プレイヤーと比べると、成長速度は中々に早いほうではあった。
「トップは厳しいけど、まあ……せっかくだし出来るだけ強くはなりたいなぁ。」
「さて、クエストも片付いたし──」
リュックからポータルクリスタルを取り出す。
自分専用の転送ポイントへ向かおうとしたその時。
通知音がひとつ、音を立てて視界の端に表示された。
《ルナ:本日20時から、新ダンジョン挑戦配信やるよ。よかったら観てね☆》
「うぉっ……マジ!?」
思わず声が出る。
今日の夜、ルナが配信をする──それも新ダンジョン挑戦という注目イベント。
これは絶対にリアルタイムで観ないわけにはいかない。
「やばい、急いで帰って準備しなきゃ……!」
クリスタルを握る手に力が入る。
眩しい光に包まれながら、まどかの体は拠点エリアへと転送されていった。
──すべては、推しのために。
そんな彼女の冒険は、今日も続いていく。
まずはこの物語を見つけてくれて、ありがとうございます。
序盤は少しゆっくりめの進行ですが、
徐々に盛り上がる予定なので長い目で見てもらえたら嬉しいです。
よければ、ブクマしてそっと見守ってくれると嬉しいです。