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カミウミノキミ ~栞を失くした恋の話~  作者: 夏野ツバメ
イイザワミナミ

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14/18

Ep.14 カレノシリアイ

 学校のチャイムが鳴り響き、どっと解放された生徒たちの波に乗りながらも、私の心はすでに家路を急いでいた。最寄りの駅に着いた私は駆け足で帰路につく。玄関のドアを開けるなり、靴も揃えずにリビングを駆け抜け、自室のクローゼットの奥へと手を伸ばす。


「あった……!」


 埃をかぶった服の山をかき分け、ようやく見つけ出したのは、奥にひっそりと掛けられていた一着。引っ張り出すと、薄暗い部屋の隅に置かれた姿見の前で、そっと胸元にあてがってみる。


「やっぱり……、ちょっと派手かな……?」


 姿見に映るのは、鮮やかなパステルピンクの上下のジャージ。バスケ部のマネージャーになる時に、ほんの少しの期待と、それから同じくらい不安を抱えながら買ったものだ。結局、一度も袖を通すことなく、クローゼットの奥でひっそりと眠り続けていた。部活を辞めた時、このジャージを見るたびに胸が締め付けられるようで、いっそ捨ててしまおうかとも考えた。でも、小心者の私には、それがどうしてもできなかったのだ。


 意を決して、ゆっくりと袖を通す。ひんやりとした生地が肌に触れ、少しだけ背筋が伸びるような気がした。もう一度鏡の前に立つと、ピンク色が妙に肌に馴染んで見える。その時、机に置いたスマートフォンの画面が光り、小さく「ピロン」と音が鳴った。待ちわびていた知らせだと、すぐにわかった。心臓がトクンと跳ね上がる。


 画面に表示されたのは、渚くんからのメッセージ。


『18時に学校の駅に集合で。飲み物とかタオルは用意してきて』


 相変わらず、彼のメッセージはいつも淡々としている。絵文字も顔文字も一切なく、まるで業務連絡のようだ。でも、以前彼が「慣れていない」と照れくさそうに言っていた言葉を知っているから、その素っ気なさに不安を感じることはない。それよりも、彼から送られてくるこのメッセージが、私にとってはとてつもなく特別に思えて仕方なかった。まるで、彼と私だけの秘密の合図のような気がして、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 ふと顔を上げると、時計の針がもうすぐ5時半を指そうとしていた。


「やばッ! もう三十分もないじゃん!?」


 思わず大きな声を出してしまい、慌てて鏡の前から離れる。ほとんど使っていないリュックサックを引っ張り出し、急いで着替えを済ませると、飲み物とタオルを雑に詰め込んだ。期待と少しの緊張が入り混じった、初めての待ち合わせ。胸の高鳴りが止まらない。



 午後5時50分。放課後の喧騒が少しずつ静まり始める時間。学校からほど近い駅は、私の最寄り駅から乗り換えなしでたどり着ける。電車を降り、慣れた道を早足で進む。どうにか間に合ったという安堵感とともに、まずはコンビニに立ち寄って飲み物でも買おうと決めた。


 自動ドアが滑るように開いた瞬間、私の目の前に立っていたのは、まさかの渚くんだった。思わず息をのむ。見慣れない、しかし、すらりとした体躯に驚くほど似合っているジャージ姿の彼は、夕焼けを背にたたずみ、いつもより大人びて見えた。


「な、渚くん! は、早いね! 私、ちょうど今着いたところだよ」


 内心の動揺を隠すように、どもりながらも精一杯明るい声を出した。彼は一瞬、瞳を伏せて沈黙すると、次いで私をまじまじと見つめた。その視線に、今日のジャージが派手すぎたかもしれないと、急に不安が胸をよぎる。私は顔を背け、曖昧に笑った。 すると、渚くんはふっと微かに口元を緩め、予想外の言葉を口にした。


「飯澤さん、ちゃんとジャージ着てきたんだ。けっこう似合ってる」


「え? そ、そう?」


 まさか褒められるとは思わず、途端に顔が熱くなるのを感じた。心臓がトクトクと高鳴り、恥ずかしさから思わず背を向けた。


「飲み物とかすぐ買ってくるから、ちょっと待ってて!」


 高揚感を落ち着かせようと、私は忙しなく店内へと駆け足で入っていった。背後で渚くんが小さく「うん」と返事をするのが聞こえ、彼が店の外で待ってくれていることを感じながら、私は目的もなく店内をうろうろした。


「お待たせ」


 深く深呼吸をして、荒ぶりそうになる気持ちをどうにか落ち着かせた私は、努めて平静を装い、コンビニの自動ドアをくぐった。外に出ると、夕暮れが少しずつ空を茜色に染め始めていた。


「それじゃあ、行こうか」


 渚くんは私の顔を見て優しく頷くと、迷いのない足取りで駅の方へ歩き始めた。彼の腕に提げられたビニール袋が、歩みに合わせてガサガサと楽しげな音を立てる。その規則正しい音に、私の胸の鼓動も不思議と同調していくようだった。彼の少し後ろを歩きながら、学校の制服姿とは全く違う、Tシャツにジャージというカジュアルな服装に見とれてしまう。いつもは整然と見えていた髪も、今日は心なしか柔らかく、風に揺れているように見えた。


 当たり前だけど……、これって……、やっぱり、二人っきりってことだよね……?


 頭の片隅に押し込めていた事象が、目の前の光景として鮮やかに立ち現れて、思考がそちらにぐいぐい引っ張られていく。考えないようにすればするほど、胸の奥でドクドクと、心臓がどんどん早鐘を打ち始めるのがわかった。まるで、その鼓動が周りに聞こえてしまうのではないかというくらいだ。


 改札をくぐり抜け、目的の電車へ乗り込む。時間はもうすぐ帰宅ラッシュに差し掛かる頃で、車内は思ったよりも混み合っていた。私たちはつり革に手を伸ばし、身を寄せ合うようにして立つ。時折、揺れる車内で彼の腕が私の肩に触れるたびに、電流が走ったように全身が熱くなるのを感じた。


 四駅ほど進んだところで、彼がすっと乗車口を指差した。「ここだよ」とでも言うように。思いの外早い到着に、内心ホッと安堵の息を漏らした。これ以上、この密着した空間にいたら、心臓が破裂してしまうかもしれないと思ったからだ。人波から吐き出されるように、私たちはふたり、ホームに降り立った。涼やかな風が、火照った頬をそっと撫でていく。


「ここからすぐ近いから」


 そう言って、渚くんは穏やかに微笑んだ。私も頷くと、再び彼の背中を追い、一歩後ろについていく。正直いって、今、この瞬間がとても嬉しくて、そして、かけがえのない時間だと感じていた。前を向いた彼に見られないように、私は自然と綻んでしまう顔を隠すようにして、足早に進んだ。


「ここだよ」


 彼の声が、少し弾むように響いた。目の前に現れたのは、想像していたよりもずっと大きな建物だった。


「すご……、けっこう大きなところなんだ」


 思わず、感嘆の声が漏れた。胸いっぱいの期待と、彼と一緒にいられる喜びが、私を包み込んでいた。


 大きな四角い建物の重厚な扉を押し開けると、目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる鮮やかな緑色の人工芝だった。まるで巨大な絨毯が敷き詰められたかのようなその光景に、私は思わず息をのむ。ふわりと漂う芝生の匂いと、微かに響くボールが蹴られる音。真新しいフットサル場の活気に、私の胸は高鳴っていく。

 

 渚くんは、その空間をぐるりと見回すと、何かを見つけたかのように瞳を輝かせ、一直線に駆け寄っていった。その迷いのない背中を、私は吸い寄せられるように追いかける。


「笹井さん、ご無沙汰してます。急な連絡だったのにありがとうございます」


 渚くんの声は、いつもよりずっと弾んでいるように聞こえた。彼が親しげに話しかけているのは、いかにもスポーツマンといった風貌の、がっしりとした体格の大人だった。


「おお、やっと来たな渚。いやぁ、小学生以来か、お前も随分でかくなったな」


 笹井さんと呼ばれた男性は豪快に笑いながら、渚くんの肩をポンと叩いた。その温かい眼差しと、二人の間に流れる和やかな空気に、私はそっと目を細める。渚くんがこんなにも穏やかな表情を見せるのは、初めて見るかもしれない。


「久しぶりに連絡くれて嬉しかったよ。今日は予約も入ってなかったし、好きに使っていいぞ。で、そっちの子がお前が話してたクラスメイトか?」


 笹井さんの視線が、私に向けられる。


「ありがとうございます。同じクラスの飯澤さん。こっちはここのオーナーの笹井さん」


 渚くんが丁寧に紹介してくれる。私は少し緊張しながらも、一歩前に出る。


「は、はじめまして、飯澤美波です」


 掠れた声で挨拶をすると、笹井さんはにこやかに頷いた。


「よく来てくれたね、代表の笹井武志ささいたけしです。女子サッカーは最近かなり人気がでてきているから、女の子のプレイヤーは大歓迎だよ」


 そう言って差し出された、がっしりとした大きな手。その掌から伝わる大人の迫力と、爽やかな笑顔から溢れる溌剌とした雰囲気に、私は少しだけ圧倒された。


「そうだ、二人じゃ試合形式もできないだろうから、俺の知り合い何人か呼んであるよ」


 その言葉に、渚くんの表情がパッと明るくなる。


「本当ですか? 助かります。あと、飯澤さんのシューズ借りてもいいですか?」


「もちろん」


 笹井さんは快諾し、私の靴のサイズを尋ねた。私が答えると、彼は「ちょっと待っててくれ」と言い残し、建物の奥へと消えていった。


 初めて足を踏み入れたフットサル場のすべてが、私には新鮮で、そして胸が躍るような期待感に満ちていた。この場所で、これから何が始まるのだろう。私は人工芝の感触を確かめるように、そっと足を踏みしめた。


「――え、なんで、ここに」


 渚くんの心底驚いたような声が耳に飛び込んできた。慌てて振り返ると、彼は見知らぬ男の人と向かい合っていた。自分たちと同じくらいの年齢に見えるその人物は、親しげに、けれどどこか悪戯っぽく笑いながら、渚くんの頭をポンと叩いた。


「よ、久しぶり!」


「やめろって……。ひょっとして、笹井さんが呼んだ知り合いって海翔のことだったのか?」


 渚くんは少し迷惑そうに、それでいてどこか嬉しそうに、その手を振りほどいた。その表情には友人との再会の照れが滲んでいるようだった。


「おう。笹井さんから渚がフットサルやるって聞いたから飛んできた。久しぶりにお前とサッカー出来るのが嬉しくてな!」


 屈託のない、爽やかな笑顔に、渚くんはばつが悪そうに小さく咳払いをした。そんな私の視線に気が付いた彼は、くるりとこちらに向き直る。


「あ、飯澤さん、ごめん。コイツは昔の同級生の瀬戸海翔」


「どうも。って、小学校からの親友をそんな他人行儀な紹介するのはやめろよな?!」


 瀬戸と呼ばれた男子は、ふざけたように渚くんにじゃれついた。その様子から、きっと昔からすごく仲が良いのだろうと、私はすぐに理解した。瀬戸の視線が私に向いたのに気が付いて、慌てて自己紹介をする。少しだけ声が上ずったような気がした。


「あ、私は渚くんのクラスメイトの飯澤美波です」


「……え、イザ?、……あ……、ああ! ()()さんね。宜しく」


 一瞬の、なんとも言えない妙な間が気になった。彼の笑顔が一瞬だけ固まったように見えたのは気のせいだろうか。しかしすぐに瀬戸はまた、あの爽やかな笑顔で応えた。


「おおい、飯澤ちゃん。シューズ、これでどうかな?」


 遠くから聞こえた笹井さんの声に、私はすぐに駆け出した。ちらりとコートを見やると、二人は既にコートに入り、まるで昔に戻ったかのように楽しそうにボールを蹴り始めている。続々とコートに入っていく他の人たちを見て、私は胸の奥に、少しだけ緊張を覚えた。


◆◆


「はぁー、もう、無理……」


 全身汗だくで、私は倒れ込むように休憩用のベンチに逃げ込んだ。肺が苦しそうにヒューヒューと鳴り、足は鉛のように重い。笹井さんが呼び出した知り合いの人たちは皆かなりの上級者らしく、想像以上にハードな練習メニューに、私の体力は早くも限界を迎えていた。


「なんであんなに、ずっと走っていられるの……」


 スポーツドリンクを掴む手が震える。冷たい液体を一息でかなりの量飲み干し、乾いた喉を潤した。ふぅ、と深く息を吐き出すと、少しだけ冷静さを取り戻す。顔を上げると、コートの向こうで楽しそうに声をあげ、ボールを追いかける渚くんの姿が見えた。彼だけは、まるで疲れを知らないかのように生き生きとしている。


「けっこうキツイでしょ?」


 突然、隣のベンチから声をかけられ、私は飛び起きるように背筋を伸ばした。心臓がドクリと跳ねる。


「せ、瀬戸くんか。うん、めちゃめちゃ、キツイ……」


 思わず飛び出した私の本音に、瀬戸くんは大笑いした。彼の朗らかな笑顔に、少しだけ緊張が和らぐ。


「笹井さんの呼んだ人たち、現役の俺たちでもキツイ面子ばっかりだからね。むしろあれだけ、ついていけた飯澤さんはすごいほうだよ」


 瀬戸くんは励ましてくれたけれど、実際にはコートの上をひとりで走り回っていただけで、ほとんど何もできていなかった。自嘲気味に笑っていると、コートからひときわ大きな歓声があがった。


「うわっ、渚くん、めっちゃウマッ!」


 華麗なボール捌きでゴール前まで駆け上がる渚くんは、最後のディフェンスを涼しい顔でかわし、強烈なシュートを放っていた。そのボールは吸い込まれるようにゴールネットを揺らす。これまで見たことのない彼の生き生きとした表情に、思わず息をのんで見入ってしまう。まるで、別人のようだ。


「渚は昔からすっげぇ上手いよ。俺はいっつも敵わなかった」


 瀬戸くんの声は、妙に嬉しそうだった。どこか懐かしむような、優しい眼差しで渚くんを見つめている。


「ねぇ、飯澤さんはいつから渚と付き合ってるの?」


「えッ?! つ、付き合ってなんていないよッ!?」


 突然の瀬戸くんの発言に、心臓が大きく悲鳴をあげた。顔にカーッと熱が集まるのがわかる。まさか、そんな風に見られているなんて。


「そうなの? 渚があんなに楽しそうなの久しぶりに見たからさ。てっきり飯澤カノジョ)さんのお陰なのかなって思ってた」


「か、か、彼女って……。私は、そんな、何もしてないよ。渚くんとはクラスが一緒で、同じ委員会に入ってて、えっと、それで……」


 しどろもどろに応える私を見て、瀬戸くんはまた楽しそうに笑った。その屈託のない笑顔は、私の動揺とは裏腹に、どこか安心感を与えた。


「そっか。でもアイツが昔みたいに戻ってきたのは、きっと飯澤さんのお陰だよ」


 瀬戸くんの言葉に、私の心臓が小さく跳ねた。渚くんが昔と違う? 私のお陰? 疑問符ばかりが頭を駆け巡る。


「昔みたいにって……?」


 瀬戸くんは一息つくように、冷たい飲み物を口に運んだ。グラスの縁から滴る水滴が、まるで彼の心のしずくのように見えた。そして、今度は寂しそうな、それでいてどこか遠くを見るような笑みを浮かべて口を開いた。


「人ん家のプライバシーを勝手に話すのは悪いけど。飯澤さんなら知られても構わないって、きっと渚も思っているだろうからさ。俺の独り言として聞いといてよ。あいつん家さ、昔は地元で人気な本屋やってたんだ。けど中学に入ってすぐの頃、店の経営が傾いて潰れちゃってさ。それから渚は好きだったサッカーも、俺達と遊びに行くことも、全部止めて家の為にバイトばっかりしてた。その頃からさ、あいつ、他人と距離をおくようになったんだよ」


 瀬戸くんの言葉が、私の胸に重く響いた。初めて出会った頃の彼を思い出していた。渚くんはクラスメイトと深く関わることもなく、いつも一人で、まるで透明な壁を隔てているかのように過ごしていた。あの時の彼の目に宿っていた影の理由が、少しだけわかった気がした。


「あいつがあんな風に変わったのって家の事だけじゃなくてさ、もうひとつ大きな出来事があったんだ」


 瀬戸くんの声が、さらに沈んだ。


「その……もうひとつって……?」


 聞いてはいけない気がした。彼の過去の深い傷に触れるようで、躊躇いが生まれた。それでも、彼のことをもっと知りたいという衝動が、その躊躇いを上回った。知らず知らずのうちに、私は彼に惹かれていたのだと、この時はっきりと自覚した。


「小学生の頃、幼馴染みの()()()()()()って女子がいたんだ。俺もつい最近あった小学校の同窓会まで忘れていたんだけど、その子は突然居なくなった」


「居なくなったって……、ひょっとして……」


 最悪の状況が頭に浮かび、息が止まりそうになった。もしも、彼が再び、そんな悲劇に巻き込まれていたら……。しかし、瀬戸くんは首を左右にゆっくりと振って応えた。その仕草に、ひとまず安堵の溜め息が漏れた。胸の奥で、張り詰めていた糸が少し緩んだ感覚があった。


「急に遠くに引っ越したんだよ。その子の事、渚はいっつも面倒見てて。『家が隣だから』、なんて口では言っていたけど本当に仲が良かったんだと思う。そんな子が突然、何も言わずにいなくなった事も、あいつの中で何か傷を残していたんだと思うんだ」


 瀬戸くんの視線が、コートの向こうに向けられた。そこでは、渚くんが楽しそうに笑い、笹井さんとハイタッチを交わしていた。その屈託のない笑顔の裏に、どれほどの悲しみと孤独を抱えていたのだろうか。


「飯澤さんと出会ってあいつの中で何かが変わり初めている気がする。だからさ、これからもあいつの事、気に掛けてやってほしい。腐れ縁の旧友からのお願いとして、心にとめといてくれない?」


 胸が締め付けられるように傷んだ。放課後、何気なく誘った書店の前でも、彼の心は誰にも聞こえない悲鳴をあげていたのだろうか。彼の優しい笑顔の裏に隠された痛みを思うと、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。汗を拭うふりをしてタオルで隠したが、熱くなった目頭はごまかせなかった。


「うん……、うん、まかせて。なんたって、私も美波ミナミだからさ?」


 涙を拭い、顔をあげると、私は満面の笑みでそう言ったのだった。彼の過去の傷を、少しでも癒すことができるなら。彼の未来に、光を灯すことができるなら。その思いが、私の心を強く突き動かしていた。



瀬戸くんはEp.2を参照してください。

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