ベランダの男の子
なろうラジオ大賞用小説第五弾
「小学生の時の事だ」
ある中学校の臨海学校の夜。
宿泊した施設の男子の部屋の中で少年は話し始める。
部屋は暗く、明かりは懐中電灯のみ。
彼の周囲にいるのは同室および近くの部屋で寝るハズの同級生。
そして彼がこれから話すのは……怪談。
彼らはなんと百物語を決行していた。
異性の部屋へ忍び込んだりお菓子パーティーしたりよりは健全だが、これはこれで寝不足になりかねん臨海学校あるあるだ。
「ある日の下校中、俺はふと視線を感じた。なんだと思って俺はすぐ、その方向を向いた。すると、何がいたと思う?」
同級生は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そしてその音を聞いた話し手の少年もゴクリと唾を飲み込んで「俺とそう変わらん歳、と言っても小学生の時の話だけど。とにかく俺達とそう変わらん歳の男子がある家のベランダにいたんだ」と話を再開した。
「あいつ、なんで俺を見てるんだ? 俺はまずそう思った。ちなみに、俺が視線に気づいたっていうのに、相手の男子は何も反応しなかった。まさか、人形なんじゃないかと思った。でも違った。よく見ると相手は震えてた。まさか、寒いのか? 俺は思った。でもその日はそこまで寒い日じゃない。じゃあなんで相手は震えてる? 俺はワケが分からなかった」
同級生の中から「おぉ」と声が上がる。
それは怖い話への期待故か、それともビビっているが故なのか。
「だけど、そこで俺はさらに気づいたんだ。ベランダの柵は、そこまで高くない。椅子があれば座って外を眺められる高さだと。じゃあ相手はその椅子に座っているのか。しかし、柵の隙間から……椅子は見えない。それじゃあ膝立ちにでもなっているのか……これも違うんだ」
「まさか!?」
同級生の一人が思わず声を出す。
同時に周囲の同級生がそいつを睨んだ。
もしも声のせいで話し手がオチを忘れてしまえば百物語のルールに背く事になるではないかと。
だがしかし。
ビックリしたものの話し手はやり遂げる。
「なんと、相手は」
全員が唾を飲む。
緊張はついにクライマックスに――。
「空気椅子をずっとしていたんだ。どこかを注視してたり体が震えたりしてたのはそのせい」
――直後、全員がズッコケた。
「ちなみに、その空気椅子をしてた相手ってのが、今日海に落ちたヤツ助けて風邪をひいた、俺の幼馴染の武司くんだったりするんだけ、ど……あれ? 怖くない? 外で平気で空気椅子する人間怖くね?」
「いやそんな怖さは求めてない!」
同級生は同時にツッコんだ。