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「お母さんは、二人をちゃんと愛してる。ただ、少し。お父さんを許せないだけなんだ。だから、お母さんを責めないで欲しい」



兄が10歳、私が6歳の時に父から言われた言葉だった。

母は、父がいるのにずっと彼氏がいる。




「そんなの、わかんないよ。何で、父さんが我慢しなくちゃならないんだよ」

「父さんは、我慢してない。大丈夫だから、心配するな」

「嘘だよ!父さんは、毎日泣いてるじゃないか。僕は、知ってる」



兄は、昔から正義感が強い方だったのだと思う。

父が我慢している事を許せなかったのだから。

私は、違う。

私は、父が何故母を許しているのかが理解できなくて。

私は、父が悪いとずっと思っていた。




「今日は、まだ家に入れないぞ」

「そう、わかった」




日中は、母が彼氏を家に連れてくるせいで、私と兄は帰宅しても家に入れない事が多かった。

半年ほど経てば、近隣から噂をされるせいで、私達家族は一年も経たずに引っ越すのだ。

そんな事を何度も繰り返して、私が9歳になった時だった。




「ここにしようと思うんだけど、母さんはどう思う?」

「いいんじゃない。だけど、戸建てなんて買ってどうするの?」

「4月には、昇が中学生になる。今までみたいにあっちこっち引っ越すのはよくないと思うんだ」

「別にいいけど。戸建てに行ったって私は変わらないわよ。近隣から噂されても、すぐに引っ越したり出来ないけど、いいの?」

「いいよ、俺が子供達を守るから」



今、思うと父はどこか調子が悪かったのかも知れない。

だから、戸建てを買ったのかも知れない。

真実は、わからないけれど……。


私達家族が、この街に引っ越して来たのは父が戸建てを買ったからだ。

母は、相変わらず彼氏を作り、日中は家に上げた。

私と兄は、いつか誰かに母のやっている事がバレるのではないかとビクビクしていた。

母のだらしなさは、男だけではない事に気づいたのはこの家に越してきてからだ。

回覧板は、一週間以上平気で回さない。

ごみ捨て場の掃除当番が回ってきてもやらなかった。


母のせいで、近所から父が怒られていた。

そして、兄は掃除当番が回ってきたら自分がやるようになったのだ。

戸建てに越してきてからは、母の尻拭いを家族全員でするようになった。



そんな生活が2年ほど経った頃。

仕事中に父が倒れたのだ。

急性の心筋梗塞だった。

医者の話によるとかなりのストレスが溜まっていたのではないかという話。


父がストレスを溜めていたのはわかる。

母がだらしないせいで、近所に文句を言われ……。

母のせいで、近所の暇なおばさん達のターゲットになった。


学校から帰ってきて兄と外で待っているだけで、警察に連絡される。

父は、その度、早めに帰宅してくれていた。


近隣に説明して回る父の姿は、とても可哀想だと思った。


母は、そんな父を見ながら何も思わなかったようで。

父が、入院してもお見舞いには1度しか行かなかった。

父は、1ヶ月の入院期間の後、亡くなったのだ。

入院中、意識は、1度も戻る事はなかった。

母は、兄から父のお見舞いに行くように何度も言われたけれど……。

その度に「機械に息をさせられている人間に会いに行って何になるの」と笑うのだった。


この頃から、兄はずっと母を殺したかったのではないかと思っている。

だけど、その願いは叶わなかった。


父が亡くなり、母の男癖はさらに酷くなっていった。

それだけじゃない。

母は、兄や私に暴力を振るうようにもなったのだ。

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