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「今日は、もう寝るよ。ありがとう、父さん」

「航大の話ならいくらでも聞くよ」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすみ、航大」




父と母に挨拶をして歯磨きをしてから、2階の自室に上がる。

ベッドにゴロッと横になって考えていた。

つむぐを殺した犯人の妹の事だ。

父に言われた通りだった。

半年前、彼女を無視した。

その事が、ずっと引っ掛かっている。


あの後、何度か学校で彼女を見かけたけれど……。

同級生から無視されて、「犯罪者」「死ね」と罵倒されている姿も目撃した。


今回、母と一緒にあの会合に参加しなかったら俺は腐った人間になっていた気がする。

彼女が嫌がらせを受けている事をざまーみろとか自業自得だって言葉で何度も自分を説得していた。


父が言った生きる権利、人としての尊厳。

犯罪者の家族だからって、俺達が奪っていいのだろうか?



スマホを開いてつむぐの事件を検索する。

菜穂ちゃんから、おばさんが倒れたって聞いた時、正直何でって思った。

つむぐは、被害者なのに……。



「つーチャンネルって」



彼女が追いかけられてた奴らだ。



【皆さん、こんにちは、つーチャンネルです。今回は、被害者の家の前に来ています。彼は、高校生でしたが18歳を迎えていましたので、名前がしっかりでていましたよね。岬つむぐ君。我々が独自に調べた内容によれば、やはり犯人と接点があったそうです。昔から、正義感が強い少年だったって話も聞きました。もしかすると、犯人に噛みついたのかもしれませんね。少し、家族が出てくるのを待ってみましょうか】



楽しそうに笑いながらつむぐの家の前で待っている。

しばらくすると、おばさんが出てきた。



【お母さんですか?つむぐ君は、犯人に噛みついて殺されたんじゃないかって話になってますが、どうなんでしょうか?】

【め、名誉毀損で訴えますよ】

【もしかして、つむぐ君もすぐに怒っちゃって犯人に殺されたんじゃないんですか?】

【ど、どうして、そんな事が言えるの?息子は、被害者なんです】

【被害者かどうかは、このチャンネルを見ている視聴者が決める事ですから、少なくとも、つむぐ君は正義感が強いお子さんだったわけですよ。犯人を逆撫でするような言葉を言ったんじゃないんですか?】

【む、息子は、犯人と面識はありません】

【母さん、中に入るんだ。君達も撮るのをやめてくれ】

【お父さんが現れましたよ。借金まみれだったのに、つむぐ君が亡くなったお陰で、借金返せたらしいですね。本当は、亡くなって嬉しいんじゃないですか?】

【ふざけるな】

【あーー、ほら、すぐにカッとなる。だから、つむぐ君は殺されたんじゃないんですか?】



「ふざけるな!」



スマホを枕に沈めた。

つーチャンネルの声が小さくなる。



「つむぐは、被害者なのに……。何で、こんな……」



誰もが、カメラを回して動画を撮れる時代。

そこに、被害者も加害者も存在しないのかも知れない。

彼らは、歪んだ正義を振りかざし、亡くなったつむぐの死を汚した。

そして、つむぐの家族の未来を壊そうとするのだ。


確かに、つむぐが亡くなりおりた保険金でおじさんは借金が返せたかもしれない。

だけど、おじさんはつむぐの死を願って何かいない。

人の気持ちを逆撫でするようなチャンネルなのに、登録者1000万人ってイカれた世の中だ。


たくさんの人が、人の不幸を見たいんだ。

つーチャンネルは、加害者と被害者の家族に会いに行き、事件の真実を検証すると書いていた。


どこが、検証だ。

勝手につむぐと言う人間を作り上げて、何も知らないのに、つむぐの家族を悪者にして。


俺も同じだ。

今の俺は、こいつらと同じだ。


こいつらと同じ人間になりたくはない。

俺は、ちゃんと真実を知るんだ。

噂話やSNSに踊らされたくない。

ちゃんと自分の耳で聞いた真実だけを信じたい。



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