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【母さんへ】

父さんの会社が潰れて、この家を手放してもかなりの借金が残る事はわかっている。

俺ね、本当は大学に行きたかった。航大と一緒にキラキラと輝かしい未来を歩いて行きたかったんだ。

だけど、それは無理なのわかってる。

わかってるから……。

色々考えたけど、働くよ。

働いて、俺も借金返すから 

【つむぐ】



「あの子ね、たぶん、死のうとした時もあったのかもね」



おばさんは、わかってるからの後に続くテンテンを指差した。



「光にかざして見たら、何か文字が書いてあるように見えるのよ。それが、しとも読めてね」



それを聞いて光にかざしてみる。

確かに、カタカナのシが書かれているように見える。

死にたいなんて、俺はつむぐから聞いた事はない。

だから、これはしょうがないとか仕方ないとか。

そうだ。

絶対そうだ。

それしか考えられない。




「つむぐの事、何も知らなかったのかなって思ったら少し悲しくなっちゃった」

「つむぐは、つむぐは死にたいなんか思った事ありません。絶対です」



おばさんは、紅茶にお砂糖を入れながら……。



「ありがとう。でもね、航大君。絶対はないのよ。だって、あの子は、航大君と一緒の大学に行きたいって、ずっと話してたもの」

「それは……知ってます。大人になったら、離ればなれになるから大学までは一緒のところに行きたいって、中学の頃からずっと話してたから」

「そうでしょ?つむぐは、絶望しちゃったのよ。うちの経済状況じゃ、どう頑張っても、大学に行けなかったから」



おばさんは、ポロポロと涙を流す。

俺は、鞄からそっとハンカチを取り出して差し出した。



「ここも出ていこうと思ってたのに、そうしなくてよくなっちゃった」



何て返せばいいかわからなくて俺は黙った。



「夫の親戚が保険屋さんで、昔、働いてたの。それで、つむぐが小さい頃に保険に入れてる方がいいって言われてね。死亡保険もかけてたみたいなの。私も夫も全然覚えてなかったんだけどね」

「はい」

「つむぐの保険金で、この家を手放す必要がなくなったの。私は、引っ越したかったのよ。だけど、菜穂が……。引っ越したら、お兄ちゃんが帰れなくなるから嫌だって泣き出してね。あの子、お兄ちゃん子だから」



おばさんの言葉に涙が流れてくる。

つむぐの部屋にいると、菜穂ちゃんがやってきて、三人でよくゲームをした。

つむぐが亡くなってから、俺がつむぐの部屋に上がる事はない。

何度かおばさんがつむぐの部屋を見てもいいのよと言ったけれど、俺は拒んだ。


だって、そこに行ったら……。

本当につむぐがいないのを認めなくちゃならないから。

頭で事実をわかっている今の状態と実際にそうだと感じるのは違う。

つむぐの部屋に行ったら、俺は壊れてしまうのがわかる。



「ごめんね、航大君が、一番悲しいのはわかってるのに……」

「そんな事ないですよ」

「だけど、つむぐを発見してくれたのは航大君でしょ。私達は、最後の言葉も教えてもらった」

「気にしないでください。それに、俺はつむぐを見つけてすぐに救急車を呼ぶ事が出来てよかったと思っています」

「ありがとう、航大君。どんな事があっても、私達はここに住み続けるから、だから、いつでも遊びに来てね」

「はい」



半年前、おばさんは俺に約束してくれた。

俺は、その言葉を今でもずっと信じてる。



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