表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

未来の見えない大人達

老人は、勝手に若者には未来があるからという。

老人は、勝手に若者にはお金があるからという。

母に連れられて仕方なく出た会合。



「私達は、年金暮らしだから」

「若い人はいいわよ。お金だってあるのだから」

「若い人はいいわよ。先が、あるんだから」


母が困った顔をしながら笑っているのがわかっていた。


「今のままでいいんじゃないかしら」

「別に、すぐどうにかならないわよ」

「私達は、いつまでいるかわからないし」

「若い人は、未来があるからいいけど」

「私達は年金暮らしだし、若い人みたいにお金があるわけじゃないから」

「この20年大丈夫だったから大丈夫よ」


腐ってる。

老害、その言葉の意味が今ならわかる。


ダン……。


「何?」

「どうしたの?航大」


母に申し訳ない気持ちがあったけれど。

俺は、キレた。


「さっきから、聞いてたらなんだよ。お前も、お前も、お前も、未来が見れないなら死んじまえよ。あのな、この世界にどれだけ生きたくても生きれない若者がいるかわかってんのか?年金でもあるなら、分けてやれよ。未来があるっていうなら寄附でもしろよ。それが出来なくてグダグダ言ってんなら、代わりに死んでくれよ」


人生で一番最低な言葉を発したのはわかっていた。

母の顔が青ざめ。

周囲の大人達が喚いている。

だけど、俺の耳には何も響かない。


生かされている事に感謝もせずに、ただグチグチとくだらない事を話し、ダラダラとしょうもない事で時間を消費する。

それが、未来の自分の姿なら。

これが、未来の俺なら。


「お前らみたいなくだらない大人になるぐらいだったら死んだほうがましだ」


死んだ方がましだから……。

連れてってくれよ、つむぐ……。


パチパチ


えっ?


「素晴らしいね。17歳だったよね?」

「はい」

「お母さんとは妻が話してるぐらいだけどね。私も君と同じ事を叫びたかったぐらいだ」


この人は、確か隣の家の葉宮さんだ。


「俺と同じ事ですか?」

「ああ。実は、昨年友人を35歳で亡くしてね、ここの人達には関係のない事だから言わなかったんだけれど。君と同じように私も叫びたい気持ちを堪えていたよ。だけど、心の中では代わりに死んでくれと思っていたね」


葉宮さんの言葉に周りはザワザワとし始める。


「ここに住んでいる大人達の殆どがどうやら、今しか考えていないようだ。歳をとって未来さえも見えない何て悲しい場所に住んでいるんだろうね」


葉宮さんの言葉に皆は怒る。

図星を突かれたからなのがわかる。


「未来ある若者に未来を見せてやる事も出来ない。少しの協力も出来ない。身勝手な大人であると自分達を思いませんか?私は、思う。彼のような若者に未来を見せてあげられない大人にはなりたくない」

「葉宮さんは、賛成なんですか?」

「これから先、住んでいくかも知れない私の子供の為にも私は道路を渡す事に賛成ですよ。その為の費用も支払います」


葉宮さんの言葉にざわつく。

渡したくない、費用を払いたくない住人は、人の話も聞かずに各々で騒ぎ立て、ごね続けている。

自分勝手で身勝手な大人達。

まるで、サルの学校だ。


いや、サルの方が利口だ。

ここにいるのは、人の皮を被った化け物。

賛成したい人達の気持ちを不安がらせる人、味方のふりをしながら土壇場で裏切ろうとしている人、出来ないとやってもいないのに愚痴る人、私は先がないからと自分を守る事に必死な人、自分のものになるわけじゃないからとお金を惜しむ人、今まで大丈夫だからこれから先も変わらないという人。


くだらない。

だから、俺達若者が未来を諦めたくなるんだ。

こんな大人達がいるせいで、つむぐは犠牲になったんだ。


会合は、結局引き渡さない事で可決した。


「父さんに話して、今の家売ろうか?」

「えっ?俺のせい?」

「航大のせいじゃないわよ。母さん、あんたにちゃんと未来を見せてあげたくなったの」

「何だよ、それ」

「だって、ここの人達の話を聞いたでしょ?歳をとってるとか年金がとか自分には先がとか……。あの人達は、何の未来も夢見る事なく老いて死ぬだけなのよ。母さんは、そんなのごめんだわ」

「でも、今更なにするの?」

「何だって出来るでしょ。まずは、パソコンでも習いにいこうかしら」


怒られると思っていたのに、母は行きよりも幸せそうだった。

俺も母の気持ちがわかる。

この場所にいたって未来は見えない。

若者が田舎を離れていく理由がわかる。

こんなに子供達がいるのに、ここには若者に夢を与えてくれる大人が少ないんだ。



「それに、今まで大丈夫だったから大丈夫って意見は母さんは一番嫌いだわ」

「えっ?」

「あの人がそう言ったから、年寄り達は流されたけど」

「うん」

「この先も大丈夫っていうなら、つむぐ君は死ななかったでしょ?」

「うん」

「葉宮さんのご主人の友達も」

「うん」

「いいように言って、あの人も結局未来が見えてないのよ。航大」

「母さん」

「だから、こんな腐った場所とはさっさと決別して、もっともっとキラキラした場所に行きましょう」

「父さん、許してくれるかな?じいちゃんの残した土地だし」

「死んだ人は、何も言わないわよ。それに、父さんだって、航大の未来を守る為なら何だってするわよ、絶対」



つむぐ……俺は絶望しなくてすんだよ。


だって、母が未来を見せてくれると言うから。


つむぐ

もう一度君に会いたい。


つむぐ……


また一緒に……


中学の時みたいに……


未来の話がしたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ