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異世界転生の、果たされない恋愛を描こうと思って筆を取りました。適応的な行動ができなく、自暴自棄になっているモンスター転生少女と、異世界に住む修道士の男の子の恋です。
夜。光の玉が炯々と舞う。そこは森の奥深く。怪しい光を森の住人たちが、怯えながらに見守っている。
「転生者様。」
やわらかい声がどこからともなく聞こえてくる。
「魔力量が枯渇して危険な状態にあります。今すぐあたりのエーテルを吸収してください。」
カッと光の玉の群れが2、3度うごめき、数を増して、回転する。その下には死体のように動かない人影が横たわる。齢15、16ぐらいの少女の姿をした、精霊の類だ。背丈は150㌢ぐらい、唇が震えて、何かにひどく恐怖している様子だった。
「ご警告します。数刻ののち、あなたは死んでしまいます。」
この声は少女に話しているのだろう。しかし、少女は一向に口をきこうとしない。相変わらずずっと目を閉じて、唇を痙攣させるように震わせている。
「よろしいのですか?死んでしまうのですよ?エーテルに手を近づけて、、」
「うるさい!うるさいの!」
少女はようやく声を上げた。少女の震えた声色から、どうやら彼女が涙を流していることが判明した。少女はそこから堰を切ったように泣きはじめた。声は泣き喚く彼女をよそに、言葉を続ける。
「緊急事態ですので、あなたに不死属性と、女神属性を付与します。さらに、特殊スキル:エーテル機関とユニークスキル:高濃度エーテル自己言及システムを取得させます。」
「ヤダ!やめて!」
少女は泣き叫んで、声を静止させる。しかし、声は止めようとはしない。
「どうしてですか。私はあなたのためと思って、やっているのです。拒まないでください。」
この声の主はその理由を聞いているようだが、事実、その内実を理解することは到底不可能である。彼女はこの世界に至る前の段階で、私たちの理解できる種類には入らない、特異な、悲劇的な体験をし、その後も苦痛が彼女を続け様に襲ったようなのだ。おおよそこの体験についてはいづれ語られることだろう。もちろん我々も彼女の感情を到底知る由もないが、彼女はもはや、誰の言うことも聞くことはない。誰も許していないし、それはおそらく自分自身も数に入れている。大抵、このような憎しみは、子供の時分には起こることはあり得ず、大人になってから十分な分別をつけて、うまく処理され、我々の知る憎しみという感情に変換されるわけだが、彼女は悪も罪もまだ知らぬときに、そういった経験をしたため、純然たる憎しみ以前の黒々とした感情がずっしりと小さな体の中にもたげつづけているのだ。
「もう嫌なの。話しかけないでください。お願いです。」
少女は丁寧に懇願する。彼女は地面に顔を伏せて、耳を塞いだ。しかし、その声は、彼女のもとにだけ、彼女のためだけに発せられているものであり、耳を塞いだところで、防げるものではないのだった。
「話しかけないことは可能です。しかし、あなたが死んでしまえば、私も死んでしまうのですよ。だから生きてほしいのです。」
「じゃあ、私から離れて別のところに行ってください。さよなら。」
「できません。私はあなたの意識の一部になっているのです。」
「あたしはあなたが嫌なの。ずっとうるさくて、あたしにはどうにもできないのが苦しいの。幻聴みたいに気持ち悪いの!」
「……」
声が止んだ。おそらく、少女はその声が頭の中に響く感覚が話にならないぐらい不快だったのだろう。こういった過剰な敏感さは、少女と似たような体験をした者にも、よく共通するものだ。これが少女の人生の中で、最も心地よい静寂であったことだろう。しかし、もうおそらく、、彼女は人生の最後を迎えるのだろう。とは言ったものの、物語はここで終わらない。死ぬ直前に誰かが彼女弱りきった身体に近づいてきた。そして、両手をかざし、
「御栄光あれ!」
少女はすんでのところで命を取り留めた。その何者かは、少女を担いで、別の場所に連れていった。少女は眠っていた。