第九回:解雇
翌日、金曜日。
昨日は欠勤してしまったが、今日通勤すれば土日はお休みである。休みだからといって身体を休める以外のあてはないのだけれど。
定時出勤して、朝礼に出席。持ち場につく。今日もまたサンドラと共同での箱詰め作業である。お昼近くなった十一時前頃に専務が巡回に来て、サンドラに一言二言声を掛ける。そして専務から悠介に、サンドラには別作業に入ってもらうので、これからは相川君ひとりで商品の箱詰めを続けてほしいと頼まれる。ちょっぴり自信がない悠介だったが、上司である専務の指示ならば仕方がない。専務からも、もう作業を始めて一週間経ったのだから慣れてきたはずだろう、と言われたのだった。
しかし、いざサンドラという共同作業者がいなくなると本当に目の回るような忙しさである。まるで三倍速で仕事をこなさなければやっていられない、といったような。ライン作業全体としても最後の段階、つまり悠介の担当箇所で行き詰っているような状態になってしまう。病み上がり、というかなんとか体調不良を抑して出てきたこともあって悠介にとってはもういっぱいいっぱい、である。
お昼休みが終わって、小一時間経った頃。専務がサンドラを連れて、停滞状態にある悠介の持ち場にやってきた。そしてサンドラに悠介と交代することを指示した。悠介は専務に一緒に来るようにと言われ、面接室へ向かう。
面接室に入る専務と悠介。専務が扉を閉める。そして悠介の対面位置に座って口を開き始める。
「相川君。いきなりだが、君はうちの工場での勤務にはとても向いているとは思えない。更に、初週から大遅刻、そして昨日は欠勤ということにも君の仕事へのやる気に疑問を感じる」
「それってクビってことですか?」
「うむ、君の中に本当に仕事を続ける意志とやる気があるのなら、まだ考えてあげてもいいのだが。無論それに加えて、我々の要件に応えられる仕事のスピードや正確さも求めるが」
「……ちょっと、無理です」
「やはり、無理かね。今我々の会社、ここ佐渡工業所は売上の減少をも受けて、はっきり言うならば経営はピンチの状態にある。悠長に君を教育しているような余裕なんてあったものではない。だから、君自身が無理だ、と言うのならば……、辞めていただくしかない」
専務の言葉に対して無言のまま、首をゆっくりと垂れようとする悠介。続けて専務が言う。
「今週出勤した分の給料だけはきちんと精算して振り込んでおくので安心しなさい。我々にとっても遠回しにとはいえど、辞めろとは言いたくはなかったが。こちらも慈善事業でやっているわけではないのだから仕方がない。理解していただきたい」
専務がそう言っている間。悠介はしめしめようやくここから去ることができる、と思っていた。はっきり言って悠介にはハナからやる気なんてなかったようだ。
「君はまだ若い。いずれは適職を見つけて、社会で活躍し、そして貢献できるようになることを我々も信じている。ただ、逃げてばかりの姿勢では生涯そういうチャンスには巡り会えないよ」
それが専務の悠介への最後の言葉だった。
悠介がクビになるのも、もっともかもしれませんね。もっともハナからやる気がなかったようですが。ほんとかな。仕事への向き不向きは個人個人でいろいろありますけれど。