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第七回:謎の悪夢

 各々がこぞって(はりつけ)になられたイエスに向かって罵声を浴びせていた。

「世を救うために来たのだったら、磔になっている自分自身を先ず救ってみろ!」


 真昼とは思えないほど、辺りは暗くなっていた。イエスが磔になっている左右にはまた裁きにあって死刑を宣告された囚人がそれぞれ磔になっている。汚れた刑場には烏たちが集っている。かつて刑に処された囚人の遺体などがそのまま放置されていて、それらがまるでゴミの山のようになっている。腐っていく途中にあるもの、ほぼ白骨化してしまったもの。虻や蝿、蛆虫なども集っている、まともな神経の持ち主ならば誰が見てもとんでもなく不愉快に感じるであろうその光景。そこからはこれまた不愉快な異臭が漂い、辺りに立ち込めている。

 その土の上に無造作に立てられた三本の十字架。粗削りの木をクロスさせただけの簡単な作りになってはいるが、木の表面には無数のトゲが生えていて、十字架に架かる者たちはそれによって相当な痛みを感じているはずだ。

 烏までもが十字架に架かった罪人たちをあざ笑うかのように「アホー!」と鳴いている。陽は厚い雲にたちこめられて辺りは暗いままである。なんとも薄気味悪い光景である。


 イエスとその両脇の罪人たちを罵る民衆の声は尽きない。ざわめく辺り。世の終わりが来ていることを誰が知ろうか。

 森の奥からは狼の遠吠えが聞こえる。正午を一、二時間過ぎたばかりの未だ白昼といえる時刻にしては奇妙な暗さである。辺りの暗さと対照するかのように、三人の囚人の周りに集る民衆たちはまるでお祭り騒ぎである。互いにふざけ合いつつ、イエスら囚人への罵倒を「楽しんで」いるようだ。白昼にもかかわらず酒までもが人々の間で振る舞われているようだ。まるで囚人が刑に処せられる場面を喜劇を楽しむかのように騒ぎながら見物しているようである。

 烏の鳴き声が一声、殊更に高く響き渡る。その次の瞬間、辺りは突然激しい揺れに襲われた。突然の大地響が起こったのである。囚人たちの周りを取り囲んでいた民衆たちは何事かと戸惑い始める。とともに太陽に掛かっていた暗雲がしばらくの間に晴れ始めて、辺りは光に包まれ始めていた。



 悠介が目覚めたとき、辺りはまだ真っ暗だった。今何時ぐらいだろう。それにしても、今見ていた奇妙な光景は夢だったか、昨日キリスト教への勧誘を受けそうになったこと、それが引っかかっていてこんな夢を見てしまったのであろうか。そう思う悠介。このままもう一度寝入ったら夢の続きを見てしまいそうである。少し身体を起こして、トイレに行って、用でも足してからもう一眠りしようか。そう思う悠介だが、身体を起こそうとしても動かない、動かせない。

 悠介はどうやら金縛りにあっているようだと気がついた。中学時代に初めて金縛りを経験してから年に数回は金縛りに遭ってきた。たまにとはいえど、そう珍しいことではない。それにしても、今見た夢って……。

 中学校のときに受けた社会科・歴史の授業の記憶を思い起こさせる。ある日の授業でちょうど今のようなイエスの磔の場面をイメージしたビデオを見させられた。先生は「この出来事を含むイエス・キリストの人生はあくまでも伝説ですが、キリストの誕生は西暦の原点、そして聖書は世界史に最も影響を与えた書物ともなっていますので」と前置きで言っていたような記憶がある。

 そのうち金縛りが解けたか解けないかも分からぬ内に悠介は再び寝入ってしまっていた。


 悠介は再び目覚める。辺りは明るくはなっていたが、雨音も聴こえる。時刻は朝の七時少し前だ。今日は工場勤務の四日目、木曜日。これからまた工場へ出勤しなければならない。だが、雨ならば今日は自転車通勤は無理であろう。今日は電車通勤か。早めに起きて工場へ向かう準備をしなければ、そう思う悠介。

 磔になったイエス・キリスト。その処刑の場面に対する私のイメージです。新約聖書の記述も考慮に入れて、ですね。

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