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第五十回:こんにちは、赤ちゃん

 クリスマスが過ぎ、また年が明けた。


 悠介は、平日の両津興業での職場生活の中で、日曜日には教会の礼拝への出席をほぼ毎週のように続けている。時々体調がすぐれないなどために休むときはあれど。

 そういうわけで、青年会としても、教会全体としても、悠介の洗礼について、本年中にはという意見が出始めている。


 年明けの一月からは洗礼を視野に入れ、湯沢牧師も同席のもと、月二回の青年会後の時間、午後三時頃から一、二時間の予定で悠介のための勉強会をしてくれることになった。

 本当にイエス・キリストを主として受け入れた人生を送ろうという意志はあるのかどうか、ただ生半可に信じているようでは洗礼を受けさせるわけにはいかない、ということ。そして、ただ勉強するだけではなく、キリストの愛を実践できるかどうか、とも。

 思えば、悠介にとっては、世間一般のクリスマスの在り方に疑問を持って駆け込むようなかたちで入ったこの「世田谷小羊キリスト教会」であったが、ついに「洗礼」が視野に入り始めたのである。


 そして、二月下旬の礼拝の報告で、二月十四日に魚沼真理奈さんに無事男の子が誕生したという報告があった。母子ともに健康そのものということである。

 それからしばらく経った三月下旬の青年会の日のとき、真理奈さんは赤ちゃんをだっこして、世田谷小羊キリスト教会に顔見せに来てくれた。

 名前は「志穏(しおん)」と決まったらしい。聖書に出てくる地名「シオン」から、そして心穏やかな子になってほしいとの意味合いも兼ねてとのことである。


「シオンくん、ほっぺたモチモチだね!」

 サンドラが志穏君のほっぺたを突付きながら言う。当然ながらまだ言葉も話せない志穏君も心地よさそうな表情を見せている。

「ユウスケも突付いてみるか?」

 サンドラの言葉を受けて、恐る恐るながら悠介も志穏君のほっぺたを触ってみる。志穏君は「だぁー!」と声をあげた。喜んでいるのだろうか。

 自分にもこんなときがあったんだよな。もう二十三年も前だけど。悠介は感慨深げにそう思ってしまった。


「しかし、真理奈さんもいよいよママになられたのですね」

 牧師夫人の博子先生がそばに寄ってきて、そう言った。

「先輩ママからちょっと釘差しておきますが、男の子はタイヘンですよ。覚悟しておきましょうね」

 牧師夫妻の間にはふたりのお子さんがいるとのこと。いわゆる「一姫二太郎」ということで、相川家と同じきょうだい構成ではある。そして、もう双方とも成人しているが、未婚とのこと。小学生の頃までは教会学校などに参加していたが、大人になってからはまだ信仰に入っていないとのことである。


 それにしても、「男の子はタイヘン」なのかぁ。自分もまた家族に散々迷惑を掛けてここまで来たのだろうか。いや、現在進行形で、かも。悠介はついついそう思ってしまう。

 そして、見附さんがひとこと。

「真理奈ちゃんの子だもん。きっと賢くて優しい子になるよ」

「そうそう。悠介君みたいな、ね」

 柏崎さんがひとこと付け加えた、その言葉でときまぎしてしまう悠介。いや、自分とは何の関係もないはずだけど……。


 そこで真理奈さんから悠介に言葉が掛かる。

「そういえば、悠介さんは洗礼を受けられる準備をしておられると聞きましたけれど……」

「えぇ、まぁ、今年の夏頃には、はい。それに向けて今、勉強会とか受けさせていただいておりまして……」

「今年は悠介さんにとっても、節目の年になりますね」

 真理奈さんは穏やかな笑みを見せていた。


「本当に、皆さん。私と私の子を祝福してくださりありがとうございます。そしてここまで見守ってくださった主に感謝します」

「また、この教会に遊びに来てくださいね。待っていますから。今はお仕事もお休みですか?」

「博子先生、ありがとうございます。はい、今年の八月いっぱいまでは夫もそろって育児休業です。また顔見せに来ますね」


 志穏君の人生のスタートを祝福するような、春の穏やかな、暖かで好天の日曜日であった。

 真理奈さんにも、無事男の子が生まれました。そして、洗礼に向けて、悠介にとっても節目の年になるのでしょうか。

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