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第四十九回:シングルベル回避

 そのうち、十月になり、今年もまた教会バザーが開催された。昨年に引き続き悠介も売り子として、そして集計担当としても大活躍であった。

 昨年の大盛況を受けてかどうか、これまで以上に多くの寄付品が集まったため、今年は土日の二日間の開催となった。土曜日の午前中および日曜日の礼拝後の午後の時間帯の「開店」である。

 十月初めから移籍したはずの真理奈さんもその夫の信也さんと一緒に土曜日に教会バザーを見に来てくれた。そして十日町は土日の両日とも見に来てくれた。


 そして、十一月になり、悠介の教会初訪問からも二周年となった。クリスマスが今年も近づいてきたのだ。思えば、二年前は世俗的な「クリスマス」に疑問を持った悠介。だからこそ「本当のクリスマス」を知っておこうということで、教会という場所に初めて訪れたのではあったのだが。

 しかし、今年は真理奈さんがいないため、クリスマス礼拝において青年会のコーラスをしようという声も挙がらずである。教会学校のほうでも、子どもたちの人気者だった「真理奈先生」がいなくなったので、半分火が消えてしまったといったところらしい。

 如何に真理奈さんがこの世田谷小羊キリスト教会にとって重要な存在だったかが浮き彫りになるかたちにはなってしまった。

 教会員が七十人ほどいる中で有志を募っても、いまだに彼女の代わりとなれる人が現れそうにもない。


 そんな中、十二月二十四日、クリスマスイブの夜。世田谷小羊キリスト教会でもキャンドルサービスが開かれる。悠介も参加したのだが、その隣には。

「来ちゃった。まぁ、今年のクリスマス、どうせ彼女いないし、いいかな」

 結局彼女なしのまま、今年のクリスマスを迎えることになってしまった十日町も「シングルベル回避」をしたかったという名目で来てくれたのだ。

「ここに来ればさ、何か楽しいというか。相川君にも居場所ってものがあるんだなぁと思うと、なんか安心できるんだよね」

 照明の消された礼拝堂の中。ろうそくの灯火でみことばを読み、皆で聖歌を歌う。

 そして牧師先生のお話。一本のろうそくの灯火はそれこそ小さなものだが、真っ暗闇のなかでは頼りになるものである。そして、ひとつひとつの灯火が集まることでどんどん明るくなっていく。イエス・キリストは真っ暗闇だったこの世に灯火を授けに来てくださったのだと。

 世間一般においてこそ、派手なイメージの「クリスマス」というイベントだが、教会でのキャンドルサービスはいつもの日曜礼拝以上に厳かな雰囲気のもとで行われた。



 キャンドルサービスが終わる。「参加賞」として来年のカレンダーが希望者に配布された。毎月、月替りでの世界各地の教会や大聖堂などの写真とともに、聖書のみことばが紹介してある。

 悠介もなのだが、十日町もそれを受け取った。十日町いわく。

「来年のカレンダー買ってなかったからね。写真とかもきれいだから、いいかなと思った。まぁ、俺も来年はちょっと聖書のことばってのに触れてみようかな」

 悠介も今年はいちおうの「社会人デビュー」を果たして、書くべき予定も増えたため、カレンダーは貴重なプレゼントであった。

 そして、外に出た十日町と悠介。冬の夜はとっぷり暮れている。今夜は晴れてはいるがやはり寒い。


 自転車を引きながら、電車で来た十日町と一緒に駅のほうへ向かう悠介。

 駅に近づくにつれてイルミネーションがあちらこちらに見られる。年末の冷たい風がふたりを襲う。

 行き交う人々。仕事を終えたサラリーマンなどが多いが、やはりカップルらしき男女もちらほら見られる。クリスマスデートだろうか。

 いままでだと、殊更にクリスマスとなれば、カップルなんての見ると若干の嫉妬感を覚えたものだったが、不思議と今日はとくにそれも感じない悠介。

 十日町が苦笑混じりでつぶやく。

「今ぐらいの時間から、世の中全般では『性夜』ってのが始まるのか。とくに今年はイブが金曜日だからなぁ」

「……まぁ、来年はまた彼女できるといいよね」

「ああよ。というか、相川君もな」

「……いやぁ、俺には恋愛は難しい」

「いやいや、相川君なら大丈夫だよ。きっと、いつか、ね」

「きっと、いつか、か……。来年中にはなんとかなるんかなぁ」

「まだまだ、わかんないけどね。俺が相川君と知り合ったのこの四月からだけどさぁ。俺のほうが会社の先輩とはいえ、年下だからこういうのもなんだけど、相川君この一年、正確には九ヶ月ほどだけど、その間に随分変わった気がするぞ」

「そうかなぁ……」

「そうだよ、そうだよ。だってさ、相川君って元ニートだったんだろ? 今では毎日出勤できてるじゃん。今年はまさに飛躍の一年だったと思うぞ」

「まぁ、そうだよねぇ、確かに。今では平日は毎日仕事なのが日常になっちゃったから、気づかなかったけどね」


 やがて駅前に着く。ロータリーの真ん中にはクリスマスツリーを模したかのような円錐型のオブジェが青白いイルミネーションを放っている。

 それは行き交う人々の目に留まるところのものになっている。とくにカップルたちに対しては。

 電車で帰る十日町と、自転車の悠介。ここでひとまず今日はお別れである。

「じゃ、今日はここで。また来週な」

「うん、来年もよろしくね」

「まぁ、仕事納めまであと二日あるけどな。とりあえず、よい週末を」

「十日町君もね。じゃあ、また」


 十日町と別れた悠介、暗い夜道なのでとくに気をつけながら自転車にまたがり、家路に着くのであった。

 やはり、ひとりでクリスマスを過ごすのが寂しいから、つまりは「シングルベル回避」という名目で「試しに教会に行ってみた」十日町ですが、来年は彼もまた信仰心を持つのでしょうか。そして悠介は洗礼を受けることになるのでしょうか。そのへんも気にはなりますよね。

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