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第四十七回:バーベキューのあとで

 世田谷小羊キリスト教会の真夏のバーベキュー会は無事に終わった。


 教会では「新参者」ながらも、準備から後片付けまでまさに大活躍だった十日町。

 また、彼の持ってきたマシュマロ、その炙り焼きはとくに子どもたちに人気を博して、一キロ持ってきたぶんもすぐに売り切れになってしまったくらいだ。大人たちも何人か試してみたが、外側を少し炙るだけで内側がこんなにクリーミーな食感になるなんてと驚いていた。このマシュマロの炙り焼きというのも、世間一般的にもまたバーベキューの新定番となりつつあるものなのだ。

 そして、最後の〆は十日町の持ってきたお好み焼き粉と、別の教会員が用意した焼きそばで作った広島風お好み焼という、まさに炭水化物攻めで、皆お腹いっぱい大満足。となると、多少の眠気も感じ始めるものだが、そこは元バリスタという中年男性の教会員のいれたコーヒーで眠気をさまして、さぁ、みんなで後片付けしよう、ということになった。

 しかし、悠介はというと、半分「心ここにあらず」的なメンタル状態でバーベキューの一日を過ごしてしまった。やはり、真理奈さんの移籍、そして妊娠のお知らせがその主な原因だったのは言うまでもなく。ただ、自分の中で物思いに耽りそうになる、そのたびにサンドラや十日町から声を掛けられ、なんとか一日をやり過ごした。


 後片付けが済んだところで、牧師先生から解散宣言が出される。夕方近くなった今でもまだ暑い、むしろ午前中より気温が高いので、熱中症などには充分注意して帰り道に着きましょうと言われた。

 十日町が誘ってくれた悠介に声を掛ける。

「今日は楽しかったよ。ありがとね。また遊びに行ってもいいかなぁ」

「もちろん、だよ。普段は真面目な礼拝だけどね。青年会とかもあるけどさ」

「確か、バザーもあるんだよね?」

「そそ、今年もたぶん十月にあるんだったかな」

「十月かぁ……。その頃にはさ、あの人いなくなっちゃってるよね」

 あの人、それは真理奈さんのことである。それを受けて悠介が。

「あ……、そうだね。ちょっと寂しくなってるよ、ね……」

「相川クーン、あの人に惚れちゃってたんだろー。今日なんか心ここにあらずだったから、さ。なんかさぁ、いつも思うけど、わかりやすいよね。相川君ったら」

「まぁ……、実はそういうこともあったんだよね……」

「今でもだろー。相手は旦那さんいるんだぞっ! 自重しようね。……と相川君になら、そこまでは言う必要はないかな」

 ここで、そばを通りかかった帰り際のサンドラが一言。

「あ、ユウスケ、また茹でタコか? 気をつけて帰ってね! バイバイ!」

 悠介の代わりに十日町がそれに答える。

「うぃーす、サンドラちゃんもお疲れさま! またねー!」


 それから、サンドラとの距離がやや広がったのを確認すると、十日町はさらに悠介に声を掛ける。

「サンドラって娘もなかなかべっぴんさんだよなぁ。なぁ、ユウスケ、あの娘狙ってみたらどうよ?」

 十日町は二人称を敢えていつもの苗字呼び「相川君」から「ユウスケ」に変え、さらにその呼び方のイントネーションもサンドラ風にアレンジしていた。

「そ、そ、そ、そんなつもりはないから、さ!」

 全力で否定しようとする悠介だが、十日町は更にからかい半分で。

「でも、仲良さそうに見えたけどね。ま、俺の主観で、客観的に見ると、だけど。国際結婚とかいうのも今どき悪くないね、ユウスケ!」

「け、結婚って……なにそれ!?」

 悠介にとっては、これまで結婚なんて別次元の話、大人の世界の話だと思っていたのに。ただ、昨年には真理奈さんだけではなく、姉の玲奈も結婚した。そして、自身も二十三歳となり、結婚していてもおかしくない年齢には確かになってしまったのだ。つまりは「結婚」が案外身近なことになってもきてはいるのだ。

 十日町の悠介へのからかいは続く。

「あはは、冗談だよ。半分だけ、ね」

「なに、それ、半分だけって……」

「俺も君もまだ若いんだから、人生で結婚すること、それをあきらめるにはまだまだ早いよ。ワンチャンあると思うぜ」

 続けて十日町が。

「それともサンドラ、俺がもらっちゃおうかなー。ユウスケが草食系気取っているんだったらさ」

 十日町のその台詞に対し、なぜか無意識のうちに「ちょっと待って!」と喉まで出掛かった悠介であった。


 真夏の熱い夕陽も徐々に傾いていき、手前に伸びている悠介と十日町の影も長くなってきている。

 しかし、「結婚」かぁ。自分にとっては夢のまた夢、自分の人生には関係ないイベントだと思っていたし、今でもそうは思ってはいるけれど。「聖書」にも結婚に関していろいろと助言や忠告が出てくるよなぁ、と思い出す悠介。帰ったらまた聖書でも読んで、そのへん調べてみようかな、なんて真面目に思う悠介。

「バス出るぞー! 早く帰ろうぜー」

 そんな十日町の言葉で、悠介はその思いを、ひとまず脳のキャッシュメモリに保管しておくことにした。

 教会としては、十日町へのアウトリーチ的な一日としてのバーベキューの日。悠介のウブな心はあっちに行ったりこっちに行ったりで忙しそうでしたが。次回からもまたお楽しみに。

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