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第四十五回:教会バーベキュー

 ときは更に進み、八月の半ばの日曜日。世間一般では「お盆」と呼ばれる、本来は仏教行事の期間に入った。

 もっとも、日本では墓参りなど仏教行事としての側面を持ちつつも、むしろ家族や親戚らが互いに集まる「ハレ」の期間のひとつとして認識されている。

 ちょうど学校も夏休み中だし、一般的な会社でもこの期間はしばしの夏休みになるところが多い。

 お盆という概念とは関係のないはずの世田谷小羊キリスト教会でも、お盆の真っ只中の日曜日に多摩川の河川敷の運動公園でバーベキュー大会が行われた。

 悠介たちの会社、両津興業も数日の夏季休暇の最中である。休暇に入る前、悠介は同僚の十日町をこのバーベキューに招待したのだった。


「やぁ、おまたせ」

 午前十時半の現地集合を前に、十時の約束でその公園の最寄駅で待ち合わせていた悠介と十日町。それからふたりで公園へ向かうつもりである。真夏の暑さが容赦なくふたりを襲う。十日町は暑がりとのことなのでなおさらだ。駅ビルの屋上の温度計はまだ午前中の時間帯なのに、既に三十二度を示している。連日暑い日々の続いているなか、今日は特に、だろうか。首都からやや郊外に来たところにある駅前の風景が陽炎でぼやっとしている。

 そこで十日町がじっと悠介の方を見て言う。

「相川君、手ぶらで来たのか?」

「うん、肉も野菜も、食材は教会で手配してくれることになってるよ」

「俺はバーベキューに年に何度も出てるからな。いわば、この道のベテランなんだよね。だから、いろいろ持ってきたんだよ。特にマシュマロを炙り焼いたのが絶品なんだよな。まさにバーベキューには外すことのできない一品だよ」

「じゃあ、なに? マシュマロ持ってきたの?」

「うん、しめて一キロ入りの大袋のね。中のマシュマロもバーベキュー仕様で特大サイズだ。これ、外側を炙り焼くと中はもっちりクリーミーになってこれがまたいいんだぜ」

「今日は結構たくさんの人が来るらしいけど、みんなでそんなに食べられるかなぁ」

「子どもたちも結構来るって言ってたじゃん。だからむしろ足りないかもしれないぞ」

「まぁ、でもさ、子どもたちは喜びそうだよ。十日町君、差し入れありがとうね」

「俺、今日初めて教会のメンバーと顔合わすからな。挨拶も兼ねてということで、ね。あと、先輩としてな、いつも後輩の相川がお世話になっていますという挨拶をだな……」

「おいおい、十日町君のほうが確かに会社では先輩だけど、年下だし。てか、そういう堅苦しいものじゃなくて、普通に友達じゃないか」

 二人はそんなふうに言葉を交わしつつ、会場である運動公園前のバス停をも経由する系統の路線バスに乗った。それにしても、とくにこの時期には炎天下の屋外から乗合バスに乗ると、冷房の効いた車内がなんとも心地よいことか。


 運動公園前のバス停で降りる悠介と十日町のふたり。バスを降りるやいなや、また再び容赦なく真夏の暑さがふたりに襲いかかる。

「ふぅ、しっかし、この暑さの中でのバーベキュー。今日は汗っだくになりそうだな。ハンドタオル、予備をの含めていくつか持ってきたけどさ」

「十日町君、さすが準備いいよね。まぁ、俺も汗っかきなのは同じだからね。この時期はとくにハンドタオル欠かせないよね」

 そう話しながら、バーベキュー会場に向かうふたり。


 バーベキュー会場は歩いてすぐそこ。その手前でサンドラと出くわす。

「ユウスケ! おはよう!」

「やぁ、サンドラ。おはよう!」

 今や悠介もサンドラとタメ口でやり取りし合うようになっていた。年齢も同じということで、向こうからの提案もあったということなら。

 悠介の側にいた、十日町の存在に気がついたサンドラ。

「ユウスケ、友だち、連れてきたのか?」

 十日町がすかさず答える。

「ん、今の子、外国人っぽいけど、相川君のガールフレンドか?」

「え、いや、違うってば! 教会に通っているフィリピン出身の人だよ!」

「そうなの? なんかお似合いっぽいけど?」

「アハハ、ワタシがユウスケのガールフレンドか? おもしろいこと言う友だちだね!」

 十日町とサンドラの台詞でつい赤面してしまう悠介。猛暑のなかであることもあり、まるで。

「おい、相川君。茹でタコみたいになってるけど、大丈夫か?」

「タコ焼きも作るか? ワタシ、日本の料理でタコ焼き好きなの!」

「うん、俺、バーベキューの〆のためのお好み焼き粉も持ってきたからさ。そのかわりにタコ焼きでも作ろうかね。ほら、タコならここに準備してある」

 まるで茹でタコみたいになっている悠介の方を十日町は指さして言った。


 そこへ見附さんたちが気づいて悠介らのほうに近寄ってくる。

「やぁ、悠介君たちも来たか。あれ? 友達も一緒なのかな?」

 ここで十日町が少し得意になって、まだ茹でタコのまんまの悠介の代弁をする。

「あ、はい、相川君の友達っていうか、会社では先輩なのですけど、僕は十日町颯といいます。後輩がいつもお世話になっております」

「そうなんだ。いやぁ、彼は今やこの教会にはなくてはならない存在なんだよね。というか、悠介君、熱中症かい? 大丈夫か?」

 そこで真理奈さんも現れ、心配そうな表情で会話に加わる。

「あら、熱中症!? タイヘンですよ! 水分と熱冷まし持ってきましょうか!?」

「ユウスケ、タコだから。大丈夫、ダイジョウブ!」

 サンドラはからかい半分で言ったのだけれど、特に真夏も真夏のこの時期、屋外でのレジャー、しかもバーベキューのように火を使うとなれば熱中症には最大限の注意が必要ではある。


 真理奈さんは悠介に心配そうに声を掛ける。

「無理は禁物ですよ! 悠介さん、木陰で少し休んでいてくださいね。スポーツドリンク持ってきますからね」

「おや、この人もまた優しそうな人だねぇ。相川君ったら教会の友達にずいぶん恵まれてるねぇ」

「この子は、十日町君っていうんだって。悠介君の会社の先輩らしいよ」

「あら、そうですか。はじめまして、私たちの教会にようこそ。あ、今はちょっと待っていてくださいね……」

 まるで「茹でタコ状態」の悠介を休ませてあげるまで、少し待っていてほしいと真理奈さんは十日町に頼んだ。

 「バーベキューのベテラン」の十日町君を教会バーベキューに誘った悠介。十日町君のなかでは、教会の仲間という存在のいる悠介に対し、先輩として安心感を覚えると同時に、友人の多いはずの彼自身のなかでもうらやましさが芽生え始めます。

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