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第四十三回:AI

 さて、連休明けの最初の日曜日は「母の日」でもあった。仕事を始めてからは、その疲れを「家で癒やす」ため、日曜日の教会での礼拝も休みがちだったのだが、悠介はこの日の礼拝には出席した。この週でサンドラとの再会からもちょうど一年である。

 更に時が過ぎた五月二十五日の給料日、両津興業での「初任給」を手に入れた悠介。「母の日」にはまだお金が入っていなかったのだが、お金も入ったあとである六月の「父の日」に改めて、母親の優子には数種の季節の花がアレンジされた花束を、そして父親の恵介には恵介「推し」のブランドのお酒をプレゼントした。優子は特に花が好きである。相川家の庭には一年通してそのときそのときの季節に応じた色とりどりの花が見られるのだが、優子はそれらのお世話を毎日毎日しているのだ。優子も恵介もそれぞれに与えられたプレゼントに感激した様子だ。

 また、ちょうどその頃、悠介自身も二十三歳の誕生日を迎えた。


 さて、ゴールデンウィークの会食の席で玲奈がさりげなくつぶやいた、何気ないのか、嫌味なのかも分からぬ「一言」のために少し、いや、かなりへこんでしまった悠介。

 あのときの玲奈の一言には「AI」という言葉が登場したが、確かに近頃はAI、すなわち人工知能技術の発達がめざましく、近い将来AIが人間のしごとを奪うかも、とまで言われるようにもなった。いや、もう奪われはじめているのかも。実際に玲奈の職場では今はもうデータ入力業務なんぞはほとんどAIが担当しているとのことだから。

 そのときの「へこみ」も一週間や十日もすればほとんど回復したはずなのだが、それ以降もたまに思い出し、漠然としつつも「悩みのタネ」のひとつとなっている。それはというと、せっかく一応は就職できたのに、AIに仕事を奪われ、失業する日がまた来るのではないかという心配から来ているものだ。



 一年の折り返しを迎えた、七月最初の日曜日。そのときの礼拝での、牧師先生のメッセージは「AIについて」であった。まるで悠介の漠然とした悩みに応えるかのようなテーマである。

「えー、二十一世紀はAIの時代と言われます。とくにここ数年になってAIが話題にあがることは多くなってきましたよね。私もこの間、パソコンでAIチャットを試してみたのですが、受け答えに不自然さを感じませんでしたし、聖書の質問を試しにしてみましたが、それに関しての知識が豊富で驚きました。もしかすると私なんぞよりも知識が豊富なのかもしれません……。そして、翻訳機能に関しても、長い外国語の文章をカメラで撮っただけで、ものの数秒で日本語に翻訳できたり、もちろんその逆も可能になっています。なんだか我々が学生時代に英語やらなんやらを一生懸命勉強したのはなんだったんだ、とさえ思ってしまいましたね……」


 牧師先生は会堂に集まっている皆の顔をぐるりと見渡しながら、次の台詞に続ける。

「近頃はAIに仕事を奪われるだとか、実際にそういう時代が既に来ているだとか、言われるようになっています。このままでは人類がAIに征服される日が来るのではないか、とまで言われているようです……。しかしですね、AIというのはあくまでも人間が作り出したものであり、人間を征服することはできない、はずなのです。むしろそうあるべきと考えるところでしょうか……」

「えぇ、まぁ、そういうようなことも受けまして。旧約聖書の創世記、第十一章。有名な話を思い出させます……。バベルの塔の話ですね。それまで共通の言語を使っていた人類が神に近づこうと、天にまで届く『バベルの塔』の建設プロジェクトに着手するというものです。それが神の怒りを買い、建設中のバベルの塔は破壊され、言語の壁というものが作られたという話です。言語の壁のせいで人類みんなで協力することができなくなったというわけですね」

 悠介はメッセージを聴きながらバベルの塔の話を思い出す。これは世間一般的にもよく知られているストーリーなので、悠介も教会に通う前からなんとなく知っていた話だ。牧師先生の話は続いていく。

「私もAIについては無知に等しいものですがね。私の考えといたしましては、人類はAIに対して、神さまが人間に対してとられているような態度で扱うべきではないかということです。ただ違う点があります。神さまは人間を愛してくださっていますし、もちろん人間は神さまを愛すべきであります。人間もAIというものを愛してしまうことがあるかもしれません。しかしAIは人間を愛することができないのです。なぜならば、『彼ら』は感情というものを持たない、からですね」

「このことを『AIはAIすることができない』とでも言っておきましょうか。AIはローマ字読みですと『アイ』、つまり『愛』ですから……。逆に言えば人間同士で愛すること、愛し合うことができるということは、人間に対する神さまの賜物とも言えるでしょう……」

 牧師先生は少し口調を強めて話を続ける。

「AIがこの先いくら発達しようとも、所詮は無生物であります。つまりは人間が利用できる道具のひとつ、というかアシスタントであり、人間を支配する存在ではないのです。そうです。我々は人間だからこそ、神さまに愛され、そして神さまや他の人間を愛することができるのです。そして、このことこそが我々人間が神さまから頂いた最高の賜物なのです……」

 AIに仕事などを奪われるだとか、もしかするとそれに支配される時代が来るのでは、というのは私が感じている危惧でもあります。今回、牧師先生に自分の不安に対して、できるだけ客観的に見て、『セルフ』でメッセージしてあげたのでした。

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