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第四十二回:仕事への誇り

「ところで亮平さんは就労移行支援施設にお勤めとのことで。つまり、悠介みたいな若者を支援して来られた、いわば本職ですよね」

「いやぁ、我々の支援対象は障がい者ということになっておりまして……」

「そうなんですか? 幸いにも……というか、まぁ……、悠介は五体だけは満足ですから、本来ならば亮平さんたちの支援を受けられないわけですかね」

「まぁ、そうですねぇ。確かに我々は障がいをお持ちの方を対象に就労支援をしておりますが。身体障がいの方に限らず、知的障がい、精神障がい、あと近年では難病や発達障がいの方の支援もしておりますよ」

「発達障がい、ですか……。確かにこの子が小さい頃には小児科の先生にそういうのをちょっと疑われたこともあったんですよ……」

 こんな感じで亮平と優子は言葉を交わし合っていたが「発達障がい」という言葉を聞いた途端、優子の表情が少し曇り出す、続けて言う。

「私も結婚前は小学校の教師として教育現場に携わってはいたのですが……。最近は教育の現場というのも複雑な環境だということで、私があの業界から身を退いたのも、結婚だけが理由ではなく、教育者として今後求められるものに、私の能力ではついていけなくなったのを感じたというのもありまして……」

 そこで玲奈がじれったそうな表情を見せる。そして、悠介の方を睨みつける仕草をする。そこでたまたま玲奈と目が合った悠介も少し不愉快な気分になってしまう。

 その空気を読んだかのように亮平は話題を転換しようとする。

「まぁ、今の悠介君はちゃんと自分で職を見つけて、そしてがんばっておられるのですから、立派だと思いますよ」

「そうですよね。僕も悠介がここまでの成長を見せてくれるとは思いませんでしたから」

 仕事の関係上、就労移行支援に関する知識をも一応は持っている恵介がここで口を開いてフォローした。続けて亮平も。

「悠介君は今のお仕事、気に入っているかな?」

 ここで、悠介にようやく「発言権」が与えられる。

「はい。僕の唯一の特技みたいなもんですけど、パソコンを使うお仕事ですし。今のところはデータ入力中心で、たまに他の雑用をするようにも言われますけど。まぁ、ニートだった頃に比べてもちろん毎日大変ですけど、充実しています」

「よかったねー。僕としても嬉しく思うよ」

 一時は険悪になりかけていた空気も、そうなる前になんとか回復した。はずなのだが……。

「私の会社では今どきデータ入力なんて作業って、ほとんどAIがやってるけどね……」

 玲奈がここでさりげなくだが、口を挟んできた。それを聴いた悠介はまたもや不愉快になり、その顔も急に曇り出す。それをいち早く察した亮平、妻にひとこと言ってやりたい気持ちもあったのだが、席の立場上そういうわけにもいかず、である。

 玲奈のその発言を最後に、一同言葉少なく会食が進んでいった。


 亮平と玲奈、長岡夫妻はその夜はホテルを取ってあるからということで、相川家には泊まらないことになった。料亭の正面からは、長岡夫妻と相川家の三人、その二手に分かれて、それぞれ別のタクシーに乗っていった。

 悠介の両親がタクシーの後部座席に座り、悠介は助手席に座った。悠介は先程の会食で玲奈のたった一言、それだけでなんだか落ち込んでしまった。いや、その前に玲奈に睨まれたのもあるけれど。


 それから連休が終わるまで更に数日の休みがあって、そして連休明け最初の平日を迎える。この日は既に木曜日で、週末までは二日しかなかったのだが、なんとか出勤するも悠介は連休中の会食に受けた玲奈の態度のために落ち込んでしまったきりだ。職場では先輩も上司も温かく接してくれる、のだけれど……。木曜、金曜と二日続けて、いつもにないミスを連発してしまい、注意を受けてしまった。それに関しても上司らからは、休み疲れというのもあるからね、とフォローしてはもらったのではあるが。

 なんだか仕事への誇りというものを玲奈に傷つけられた。悠介はそう感じているのであった。

 確かに今二十二歳でもうすぐ二十三歳になるのに、大学には行っていないけれどQ学園まで出ているのに、パートの仕事ぐらいで誇ってなんているようでは……、と悠介は自虐気味に思っていた。

 なんとか「社会への船出」に成功した悠介ですが。玲奈は未だに悠介に対し受け入れがたさというか、軽蔑の感情さえ持っているようです。きょうだいであっても、いやきょうだいだからこそ、こういう感情は持ちうるものです。しかし、悠介は亮平さんといういいお義兄さんに恵まれてはいます。もちろん教会でのお兄さん、信仰の先輩にも。さて、これから先はどうなるか。洗礼を受けられる日は来るのだろうか、気になりますね。

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