第四十回:教会バザー
翌週の日曜日、予定通り世田谷小羊キリスト教会のバザーが開催され、それは無事に、むしろ大成功のうちに終えることができた。
大勢の人がバザーに来てくれた。悠介にとっては最初のバザーだったが、今回はとくに近年稀に見る集客力だと牧師夫妻も言っておられた。今日は天気もよかったからだろうか。
寄付によって集められた商品のほとんど全てが誰かの手に渡ることになった。最後には叩き売りよろしく十円でいいよとか、モノによってはタダでどうぞなどということにして、なんとか持っていってもらったものも多かったりはしたのだが。
悠介にとっても今回バザーに参加したことは貴重な体験となったのと当時に、欲しかったもののうちのいくつかを手にするチャンスにもなった。会場で「売り子」として「活躍」していた合間を縫って「お客さん」として回っていたのだ。悠介の欲しかったもの、その中のひとつ・悠介の好きなアニメのグッズ。無業者である悠介には金銭的にもちょっと手に入れにくいものだが、今回のバザーのおかげで格安で手にすることができた。その他悠介の好きなシリーズや作家のコミックやライトノベルもこれまた格安で何冊か買えた。欲しかったものがバザーのために寄付されていたのは悠介にとって幸運なことであったのだ。しかし、教会のバザーでこんなグッズが手に入るなんて、悠介にとっても意外や意外。思ってもみなかったことではあった。
会場の後片付けが全て終わる頃には時刻は既に午後六時近く。十月の空はもう真っ暗になっていた。さらに、これから「打ち上げ」という名目でバザーに関わったメンバーで教会から割と近場にある中華料理店に会食に行くことになっている。そこで悠介の携帯電話が鳴る。
「もしもし……」
「もしもし、悠介? 今日は帰りがやたら遅いから心配してるんだけど……」
母親の優子からである。
「うん、今日は教会バザーだって言ったでしょ。今までバザーの後片付けまでしていたら遅くなった」
「でも、もう六時じゃない。お夕飯の準備も整っているから、夜道には気をつけてなるべく早いうちに帰ってきて。今日は悠介の好きなハンバーグとエビチリがあるから」
「これからみんなで打ち上げに行くんだよ。だから、もう少しは遅くなる」
「あら、そうなの? じゃあ、夕飯はラップして冷蔵庫にしまっておくわね。夜食にするか、明日にでも食べてちょうだい」
「はい、はーい」
「あんまり遅くなりすぎないようにね。そしてくれぐれも気をつけて帰ってきなさいね」
「わかったよー」
そういうふうに電話が終わる。
そこで見附さんが聞いてくる。
「お母さんかな?」
「はい、そうです」
「いいお母さんだよね。俺たちもお会いしたことあるけど、悠介くんのご両親って理解あるよね」
「えぇ、まぁ……」
「俺んちなんて、クリスチャンになることさ、やっぱ最初は親には大反対されたよ」
見附さんはキリスト教系の大学で学んでいたときに、イエス・キリストを信仰することを心に決めたが、それはなかなか家族の了承が得られず苦労したということだ。そんな大学にやらなきゃよかったとまで言われたという。日本ではキリスト教系の大学であってもクリスチャンの学生は一割すらいないらしい。ましてや、日本社会での世間一般ではだいたい一パーセント、すなわち百人に一人しかクリスチャンはいないのだ。
「まぁ、最近ではね。教会にいい人いないのかとか、言われる。俺ももう三十二だからなぁ……」
まさに苦笑といった表情を見せてそう言った見附さん。
悠介はそれより十も下なのでまだ「婚活」とかなぞ考えなくてもいいのだろうけど。でも、今年は姉の玲奈もそうだが、同い年の真理奈さんも結婚された。そろそろ「婚活」というものも意識したほうがいいのかもしれない。ただ、その前に「就活」しないと話にならないのだが。
「今日は悠介さん、大活躍でしたね」
そこで悠介は真理奈さんにも話しかけられた。
「そうそう、会場設営とか商品の陳列だけではなくて、売り子としても、超がんばってくれたね」
柏崎さんも今日の悠介の働きをほめてくれた。再び見附さんが。
「あとは売上の集計頼んだよ。来週までにファイルを添付して俺宛にメールしてね」
今日は悠介、バザーでの「戦利品」だけではなく、売上を集計するために必要な売上伝票などが入った封筒をも持ち帰ることになった。
「ほんと、悠介さん。最初から最後まで大活躍でしたね」
この台詞を言っていたときの真理奈さんの微笑み。これを天使の微笑みと例えずになんと例えるべきだろうか……。
かわって見附さん。
「これも悠介君の賜物なのだろうね」
「たまもの、ですか。それはいわゆる『タラント』ですよね」
「そうそう。神様から授かった悠介君ならではの、悠介君だからこそ持つ、大事な財産だよ」
さらに柏崎さん。
「悠介君にとって、これから仕事を探して、そしてそれに就くときに活かしたりできそうだよね」
来月で教会初訪問から一年。もうニートになって三年半が過ぎてしまった。今からでも就職はそう容易くできるものなのだろうか。同年代の人はもう大学卒業を控えているというのに。
そんなふうにぐだぐだと考えていた悠介の顔色をうかがったかのように柏崎さんが言う。
「まぁ、心配しないで。悠介君に合った仕事はきっと見つかるよ」
続けて真理奈さんと、見附さんが。
「そうですよね、少なくとも今日の悠介さんは大活躍でしたから。どこかで職業として活かせる可能性は高いと思いますよ」
「そうそう。『俺はやればできる子の、相川悠介だ!』って胸を張ってみなよ」
見附さんのその台詞で、悠介をも含む皆は思わず声に出して笑ってしまったのだった。さらに真理奈さんが。
「私たちにはイエスさまが味方についておられますからね。そのことを忘れないでくださいね」
イエスさまがおられるなら、ついておられるのなら、人生こわいものなし、とでも思っていいものだろうか。そう悠介は思い巡らした。
教会バザーでは大活躍だった悠介。これを通して、少しは自信というものをつけてきたのかもしれません。




